信用調査マンはどうやって企業倒産の兆候を見抜くのか。特集『決算書で読み解く! ニュースの裏側2023夏』(全27回)の#3では、20年以上の間、4000社を超える倒産企業を取材してきた帝国データバンクの信用調査マンが、「取材メモ」の中から2社の事例を紹介し、解説する。
毎年恒例パーティーの挨拶者を見て
ともった「警戒のシグナル」
「あれっ? 今年はどうしちゃったんだろう」。壇上の人物を見て、思わず口に出てしまった。株式公開も視野に入れていたX社では、毎年「経営報告会」と称したパーティーを都内のホテルで行っていた。報告会には取引銀行や取引先などが多数出席し、銀行団を代表してメインバンクの支店長があいさつするのが恒例となっていた。
だが、その年に登壇したのはメインのA行ではなく、サブメインだったB行の支店長。併せて、B行を中心とする新たな資金調達計画が発表された。
「メインが変わったのか」と思うと同時に、設立時からこの会社を支えてきたA行がメインバンクの座から降りたことで、X社への警戒を知らせる“シグナル”がともった。
それから2年。この間も折に触れて、X社の定点観測を続けていた。X社は太陽光発電の開発事業を中心に、産業用機械製造、環境装置開発などを20年以上にわたって手掛けてきた。この時点で売上高は160億円を突破し、数字だけ見ると、順調そのもの(下図参照)。
だが、入手した3期分の決算書にあらためて目を通すと、気になる“兆候”が幾つかあった。
一つは「棚卸し資産」の増加だ。順調に売り上げを伸ばす一方で、主力の太陽光事業で進行中の仕掛かり案件が増え、在庫勘定が毎期膨れ上がっていた。「棚卸し資産回転期間(棚卸し資産÷月商)」も、〈前々期〉2.6カ月→〈前期〉4.5カ月→〈最新期〉13.1カ月と、在庫過多は一目瞭然だった。
「借入金」の増加も顕著だった。在庫増に伴い、相応の運転資金が必要となったためとみられた。取引銀行数も増え、いつの間にか20を超えていた。いわゆる「多行取引」の状態に陥っていた。(支払利息÷借入金×100)で算出した、この間の「借入金平均金利」は2%を優に超えた。低金利が当たり前の今日、明らかな“異常値”を示していた。
売掛金や受取手形といった「売上債権」の多さに加え、数期にわたって少しずつ増える「未払い金」勘定も引っ掛かった。
「この2年で明らかに倒産リスクが高まっている。早晩行き詰まる可能性もある」と、X社への警戒度をさらに一段高めた。
そして、その半年後、X社をめぐっては、まるで人気漫画『ナニワ金融道』のような取り引きが明らかになる。昭和に横行し、令和の今も手を染める企業が多い「危ない錬金術」とはどういうものなのか、解説しよう。