大手電力の不祥事を機に、内閣府の作業チームが「大手電力から送配電事業を所有権分離すべし」と主張している。業界は反対するが、分離すれば各社にどれほどの財務インパクトなのか。『決算書で読み解く! ニュースの裏側 2023夏』(全27回)の#4では、9社決算のセグメント情報を基に独自試算してみた。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
カルテル、さらに不正閲覧
電力「大不祥事」でメスが入るか
関西電力を中心に大手電力4社が絡んだとされる電力カルテル事件で、うち3社への計約1010億円もの課徴金納付命令案が明らかになったのは2022年12月1日。
同月下旬、カルテル事件に匹敵する「業界大不祥事」の口火を切り、話題の中心となったのはまたしても関電だった。
全国各地の大手電力会社の傘下には送配電網の維持管理などを行う送配電子会社があり、自社グループ内の小売り部門に対しても、その競合である新電力に対しても「中立性」を求められている。
しかし、関電は小売り部門が送配電子会社の保有する新電力の顧客情報をのぞいていたばかりか、あろうことか営業活動に利用していたケースもあったと発表した。これを契機に他の大手電力会社でも不正閲覧が明らかになったが、営業活動に使うといった“悪質性”では関電が群を抜いていた。
この大不祥事を受けて、内閣府の再生可能エネルギーに関するタスクフォース(作業チーム)が今年3月、送配電子会社を大手電力から「所有権分離」するように提言。“実害”を受けていた新電力の一部からも、同様の声が上がる。
大手電力側は「安定供給に支障を来す」などとして反対する。業界を所管する経済産業省も、憲法で保障される財産権の侵害に当たりかねないとして慎重な姿勢だ。
そこでダイヤモンド編集部は、所有権分離した場合の財務影響を、各社決算のセグメント情報を基に試算した。外部から不明な利益の内訳は、案分などで対処した。
対象となるのは、東京電力ホールディングス(HD)、関西電力、中部電力、東北電力、九州電力、中国電力、北海道電力、北陸電力、四国電力の9社。試算を「送配電事業を所有権分離した場合の影響額ランキング」として、次ページから明らかにする。
試算ではなんと、一部の会社で1000億円以上の利益が減少すると判明した。