歴史的な円安という追い風が吹く自動車産業。その恩恵もあってか、自動車大手はコロナ禍の危機的な状況から脱し、黒字を確保している。ところが、倒産危険度で測ってみると、安泰とはいえない苦境も浮かび上がる。市場環境が激変した16業界について倒産危険度ランキングを作成したところ、自動車関連業界では25社が“危険水域”入り。日産自動車がワースト3位にランクインした。特集『選別開始!倒産危険度ランキング2022』(全20回以上)の#4は、自動車関連業界の倒産危険度ランキングを詳報する。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
歴史的な円安の追い風が吹く自動車業界
トヨタは為替の恩恵で8650億円増益
新型コロナウイルス感染拡大による落ち込みから一転、自動車業界に円安という追い風が吹いている。
2022年3月期の決算で、営業利益2兆9956億円と過去最高を記録したトヨタ自動車。このうち実に6100億円が、円安による押し上げ効果だ。
市況の回復と円安の恩恵もあって、自動車大手7社の22年3月期の決算はSUBARUを除く6社が増収を記録した。21年3月期は最終赤字だった日産自動車やマツダ、三菱自動車も黒字へと復帰し、7社全てが最終黒字を確保した。
今春以降は日米金利差の拡大もあり、円安はさらに加速。自動車業界は今期も円安による恩恵を受けられそうだ。
11月1日に23年3月期上半期決算を公表したトヨタは、今期の円安による増益効果を2200億円上方修正し、1兆0850億円を見込む。それでも通期の営業利益の見通しは、原材料価格の高騰などを受け、前期から減益となる2兆4000億円の予想を据え置いた。とはいえ、その根拠となる想定レートは1ドル=135円である。一方、足元のドル円相場は1ドル=140円台半ばで推移しているため、この水準の相場が続けば円安効果で数千億円規模の更なる利益の上積みが期待できそうだ。
なにせ、対ドルで1円円安になるだけで、トヨタの営業利益は約400億円増えるとみられている。同様に、1円の円安で、ホンダと日産は約100億円が営業利益ベースで押し上げられると想定されているのだ。
ただし、円安というお化粧は、実態を覆い隠してしまう。足元では日本の自動車産業に不安も出始めている。
トヨタの23年3月期上半期の売上高は、前年同期比14.4%増の17兆7093億円と過去最高を記録。ところが営業利益は同34.7%減の1兆1414億円と大幅な減益になった。上半期の世界販売台数は前年同期比2.3%減の474万台で、2年ぶりに減少に転じた。さらに半導体不足を理由に、11月には国内14工場中8工場で一時稼働を停止する予定で、23年3月期の世界生産台数は当初計画で過去最高としていた970万台を50万台下方修正し、920万台とした。
さらに深刻なのが日産だ。上半期の世界販売台数は156万台で、前年同期からなんと20.4%も減ったのだ。
日産は22年3月期決算で2155億円の純利益を計上し、前期の4487億円の巨額赤字からは脱した。ところが22年3月期の世界販売台数は388万台と、前期から4.3%減っているのだ。加えて22年3月期の利益のうち、約760億円は独ダイムラー(現メルセデス・ベンツグループ)株の売却益だ。
円安が日産の本業の不振を見えづらくしているが、仮に円高へと為替相場が転じた場合、一気に窮地に追い込まれる可能性すらある。
ダイヤモンド編集部が16業界別の倒産危険度を検証したところ、自動車関連業界では25社が“危険水域”と判定された。そして日産はワースト3位にランクインした。
日産といえば、系列のサプライヤーのマレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)が事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)の申請を断念し、今年6月に民事再生法に基づく簡易再生が決まった。自動車業界では「第二のマレリは?」「次はどこか?」と不安視する声が絶えない。
次ページでは、25社がランク入りした自動車関連業界の倒産危険度ランキングを企業の実名と共にお届けする。