自動運転技術を使ったサービスでは、テクノロジーが重要であるのと同時に、命を預け、サービスを使ってもらうために顧客との信頼関係が大切になります。クルーズには顧客中心に考えるカルチャーがあり、そうした感覚が希薄になっていたGMに、そのカルチャーをうまく注入できたのでしょう。
自動運転技術への投資は、フォードも行っていました。しかし、フォードがフォルクスワーゲンと出資したアルゴAIというスタートアップは、2022年10月に事業継続を断念して閉鎖。フォードはレベル4(特定の条件下での完全自動運転)は当面目指さず、運転支援システムに注力するとしています。
GMとフォードでは、買収・投資したスタートアップの技術レベルと資金調達できた金額が段違いでした。それがこの結果に現れています。産業が大きく転換する正念場では、小さなことにちまちま取り組んでいても仕方がありません。本当に技術力のあるところには、大きく投資をしなければいけないのです。
大企業のリソースを生かして
成長を加速する「スイングバイIPO」
先ほど述べたとおり、GMクルーズはGMに買収されてからも、他社から資金調達を行っています。ホンダのほかに、マイクロソフトやウォルマートからの出資を受けており、今後、株式市場への上場も目指しています。これは、日本で「スイングバイIPO」と呼ばれるスタートアップの成長手法と同じやり方といえます。
スイングバイとは、宇宙船が惑星などの重力を利用して加速してさらに遠くを目指す航行技術のこと。スイングバイIPOは、スタートアップの新規上場までの道のりを宇宙船の航行に例えた呼び名で、スタートアップが大企業の傘下にいったん入り、そのリソースを生かして成長を一気に加速して上場することを意味します。
2015年の創業から2年でKDDIに買収されたIoTスタートアップ・ソラコム創業者の玉川憲氏は、スイングバイIPOを目指すとかねてから公表しています。