JRグループが訪日旅行者向けに販売する「ジャパン・レール・パス」の値上げが発表された。平均値上げ率70%の大幅改定とあって複数のメディアが反応し、一部では「海外客が鉄道を使わなくなるのでは」と先行きを不安視する声も上がっている。しかし価格戦略の専門家である筆者には、今回の値上げは戦略的なプライシングであるように映った。大胆な値上げの裏に隠された納得の理由を解説する。(プライシングスタジオ代表取締役 高橋嘉尋)
40年以上「格安」で販売
訪日外国人にも人気の定額きっぷ
2023年4月、JRグループが販売する「ジャパン・レール・パス(以下、JRパス)」の値上げが発表された。値上げの時期は同年10月頃を予定しているという。JRパスとは1981年から販売されている訪日旅行者向けの特別企画乗車券で、その便利さとお得さから日本を訪れる観光客には抜群の知名度を誇っている。
旅行者はパスを購入すればJRグループが運営する鉄道、バス、フェリーに期間中何度でも乗車できる。訪日旅行前でもオンラインサイトや海外の指定代理店等で購入でき、旅行中は日本中のJR路線で使用可能という利便性の高さだけでも十分魅力的だが、それ以上に目を引くのが「お得さ」だ。
パスはグリーン車用と普通車用の2種類があり、さらにそれぞれ利用できる期間が7日、14日、21日間に分かれている(全6種類)のだが、いずれも料金は格安である。例えば「普通車用・7日間」のパスは2万9650円(指定代理店価格)で、これは東京―大阪間を新幹線で一度往復するだけでもほとんど元が取れる計算になる。
この安さは世界水準からしても際立っている。例えばアメリカで販売されているUSAレールパスは、アメリカ全土に鉄道網を敷くアムトラックの普通車両に定額で乗車可能になるチケットだが、10回の回数制限付きで価格は499ドル。現在の為替では7万円に迫る金額で(1ドル138円で算出)、円安突入前の1ドル110円で計算しても約5万5000円となる。
有効期間は30日間だが、10回しか乗り降りできないことを考慮すればいかにJRパスが便利でお得かが分かる。