バリューに沿った行動で昇給・昇格

木下 仕組みづくりという意味では、2021年に評価制度も刷新しました。理念経営という観点で言えば、ここではパフォーマンスとバリューを分けて評価するようになったことが大きいなと思っています。

佐宗 人事評価の軸にもバリューが組み込まれているのですね。パフォーマンスとバリューの評価は、どんなふうに分けるのでしょう?

木下 メルカリでは、人材のパフォーマンスとバリューの達成度をそれぞれ5段階で評価して、半期ごとに面談でフィードバックしています。このとき、どちらかというとパフォーマンスは賞与に、バリューは昇給・昇格に反映させるようにしているんです。

 というのは、パフォーマンスはある程度環境の影響を受けますよね。マーケットの状況とマッチして大きなインパクトを出せるときもあれば、逆にかなりがんばったけれど技術的な制約などがあって日の目を見ないこともあります。それなのにパフォーマンスだけで評価してしまうと報われない人が出てしまいます。

 一方で、バリューに沿った行動はどんな状況でも起こせるものです。つねにそういう行動を取り続けているかどうかも目に入るので、再現性も確認できます。だから仮に成果が出ていなくても、「この半期、あなたはGo Boldに攻めていましたね」という人は、きちんとした評価できるようにしたんです。ですから当然、パフォーマンス評価は2だったけれど、バリュー評価は5という人もいますよ。

佐宗 ふつうの企業だと、バリューを土台にしながらリーダーシップや戦略立案のような能力を身につけてもらい、あくまでもその「能力」を評価するというケースが多いと思います。一方でメルカリでは、身につけた能力を評価をするのではなく、バリューに基づいた「行動」そのものを評価するのですね。

 バリューに沿った行動を評価できるようにするうえでは、暗黙知を形式知にしていくときならではの苦労もあったのではないかと思います。

木下 そうですね。やはり大変だったのは言語化の作業です。バリューに沿った行動とひと口に言っても、それは社員のグレードに応じても変わってきます。各グレードに応じてその定義をかなり細かく言語化し、明記していくことに力を入れました。とくに企業規模が大きくなってきて、外国籍の方も増えてきたので、オリジナルのニュアンスをしっかりとつかみながら、それを英語に落とし込んだバージョンも作成していかないといけません。

佐宗 それはかなり大変そうですね!

木下 ええ、「このグレードであれば、こういったGo Boldを求めます」というのを徹底的に明らかにしていきました。ただ、どんなに細かく明記しても、どうしても抽象的な部分は残ります。その部分の解釈は、プロとして各個人が考えてほしいと伝えていますね。

佐宗 今日お話を伺ってみて、木下さんがメルカリのCHROになられてから、かなり踏み込んだ人事制度改革を行われたのだなという印象を改めて持ちました。そもそも、こうした一連の改革には、どういう意図があったんでしょうか?

木下 これもある意味では企業理念に基づいた考え方かもしれません。メルカリは当時、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げていたわけですが、これを達成しようとしたら「非連続の成長」が必要だと考えたんです。

 そのためには、社員にどんどん新しいことを起こしてもらう必要があるし、人事としてはそういった行動を後押ししていきたい。そのために、360度評価や定性レビューなどを行って、バリュー行動を後押しできるような人事評価制度にしようと思いました。

 一方、採用面でいうと、世界から才能あふれる人材を集めるためには、ローコンテキストなわかりやすい給与体系も必要です。だから、ベンチマーク企業の給与サーベイの結果を参考にしながら、ジョブタイプ別の給与体系もつくって併用するようにしています。

 これまでも市場競争力を参考にして給料を決めようとする方針でしたが、部門長やマネージャーの市場認識に基づいて給与が決まる部分があり、採用される側からするとわかりにくいところがあったと思います。「給与サーベイの結果によると、あなたのジョブタイプではこれくらいの給与水準になりますよ」という根拠を明示できるような制度に変えたことで、海外人材に対するリーチ力は一気に高まりました。

 そのほうが採用される側の安心感もグッと増しますし、今は外国籍社員の4分の1がリファラルで入社していることからもそれがわかると思います。現役社員たちが「おもしろい会社だから一緒に働こうよ」と勧めてくれて、紹介の輪が広がっているんですよ。これはミッション・バリューに紐づけて制度を考え、仕組みをつくってきた成果だと思いますし、人事として率直にうれしいですね。

佐宗 社員からすると、バリューに沿った行動を評価してもらえるというのも、安心感につながりますし、大胆なチャレンジもしやすいでしょうね。次回は、今年2月に発表されたグループミッションに関わる取り組みなどについて教えてください。

【メルカリ人事責任者に聞く】採用に強い会社に変わる「仕組み」づくり

(第2回に続く)