「業績はいいのになぜか優秀な社員から辞めていく……」
「リモートワークが増えて組織の一体感がなくなった……」
「新しい価値を提供する新規事業が社内から生まれない……」
「せっかくビジョンやミッションを作ったのに機能していない……」

こうした悩みを抱える経営者たちからの相談を受けているのは、新刊『理念経営2.0』を上梓した佐宗邦威さんだ。本書には、人・組織の存在意義を再定義する方法論がぎっしり詰めこまれている。
企業は「利益を生み出す場」から「意義を生み出す場」にシフトしなければ生き残れない。そこに「意義」を感じられなければ、企業からはヒト・モノ・カネがどんどん離れていくからだ。
そこで今回、企業理念の策定・実装に向けたプロジェクトを数多く担当してきた佐宗さんにインタビューを実施。「優秀な若手が集まる企業とそうでない企業との違い」について聞いた(取材・構成/樺山美香、撮影/疋田千里)。

優秀な若手が「集まる会社」と「去る会社」。決定的な違いとは?

優秀な人ほど就職人気ランキングに関心がない!?

──トップダウン式の経営システムから「理念経営2.0」に転換できない企業は、優秀な社員から辞めていく理由が本書でよくわかりました。できる人ほど自分の実力を発揮できる場を慎重に選んでいるんですね。

佐宗邦威(以下、佐宗) 優秀な若手は実力も行動力もあるので、どこで自分の力を発揮すべきかよく考えています。誤解を怖れずに言うと、就職先の人気ランキングトップ30に入るような大企業には興味を持たない人たちです。なぜなら、配属先がどこになるかもわからず、自分が担当する仕事の意義もわかりにくい会社で働くことは耐えられないからです。

 だから、社会的存在意義を明確にしている企業理念を掲げた会社に、仕事の意義を重視する優秀な人たちが集まるわけです。とはいえ、そういう人の受け皿になる会社がまだまだ少ないので、失敗しない選択肢として人気企業に入る優秀な人もいると思いますよ。そこまで仕事にこだわりがなければ、社会経験を積むつもりで大企業を選ぶ人もいるでしょうし、新卒だったらそういうものかなと思うので僕は否定しませんね。

──確かに、社会経験を積むことが目的であれば大企業はうってつけですね。

佐宗 ただ、自分で手を動かして価値を生み出せる人ほど、どこで働くかということをすごく重視しています。専門技術を持っているエンジニアとかデザイナーは特にそうです。IT系の企業が理念をつくったとき、それを現場活用する際のファーストチョイスは新卒・中途のエンジニア採用であるケースが多いですね。

──本書にはさまざまな企業理念が紹介されていて、それぞれの企業の特徴や個性がよくわかっておもしろかったです。

佐宗 大企業では新卒の一括採用がまだまだ主流ですが、何者でもない人を雇って育て上げていくこのシステムの崩壊は始まっていると思います。採用や会社選びについては、この本の後半に書いたカルチャーの話が深く関係してきますね。

 採用の意思決定の場面では、企業のバリューやカルチャーとのフィットがいちばん重要だと思います。ミッションやビジョンについては、共感できなかったらお互い困るとは思いますが、社会経験がない新卒だと本当にその理念に共感しているのかどうかなんてまだわからないですからね。ある程度、共感していることは前提になりますが。

 でも、バリューやカルチャーについての合う/合わないは、その人と企業の価値観がもろに出るので、相性が合わないとかなり辛いです。特に企業理念をしっかり機能させている会社であればあるほど、ある種、独特のカルチャーができあがっているので。それが合わないとお互い不幸になります。カルチャーフィットと、自分たちがこだわりたいことを明確にするバリューを採用基準にすれば、そういう不幸は回避できると思います。

優秀な若手が「集まる会社」と「去る会社」。決定的な違いとは?