「仕組み」で重視した行動デザイン
佐宗 対話をし、プロとして考えてもらうために、あえて仕組みづくりをしなかったメルカリが、方針を変えたわけですね。どんなことに気をつけて仕組みをつくったのですか?
木下 仕組み化はしたいけれど、組織を官僚的にしたいわけでもなければ、人から思考力を奪いたいわけでもありません。仕組み化のいちばんの弊害は、強制的にやらされている感が出てしまうことです。だからこそ、私たちは「行動デザイン」を意識しました。
カーナビを想像していただくとわかりやすいと思います。カーナビが右に曲がれと言っていても、ドライバーは必ずそれに従って曲がらなければいけないわけではないですよね。カーナビはそれが近道である可能性が高いからそう勧めているだけです。もしも自分がよく知っている道であれば、ナビの指示を無視して直進してもいい。
私たちの仕組みもそのようなものであり、あくまでも「目安」だということを強調しています。加えて、実務上ではその「目安」のとおりにやるだけでは、うまくいかない局面もあるはずです。そういうときにはやはりプロとして、自分で判断してほしいんですよ。
佐宗 また、メルカリはバリューを大事にしていますよね。これもある種の行動規範だと思いますから、「目安」だと言えるのではないでしょうか?
木下 はい、そのとおりです。外部から押し付けられた行動は、バリューに基づいた行動だとは言えないですよね。だから、バリューを楽しめるような工夫をしています。メルカリには「mertip(メルチップ)」というピアボーナスを贈り合う制度がありますが、それとバリューを紐づけて「今日の発表、Go Boldだったと思います!」などとお互いに言い合えるようにしました。
『理念経営2.0』にも書かれていましたが、バリューの文言をSlackスタンプにしたりして、日常的な社内コミュニケーションででも、バリューを楽しみながら使えるようにもしています。
佐宗 バリューに合った行動を自然に促すうえでは、とてもいい方法ですよね!
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に最新刊『理念経営2.0』のほか、『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(いずれもダイヤモンド社)などがある。