周りと同じことをやって成功できる人などいない
同調圧力の強い日本でこそ「権力の法則」は有効
――法則4「強力なパーソナルブランドを確立せよ」はどのように行うべきでしょうか。
フェファー メディアを味方につけるべきだ。メディアを通し、自分とは何者か、どこがユニークなのかをアピールし、できるだけ多くの方法でメッセージを発信すべきだ。才能を隠したり、控えめに振る舞ったりするのは、ご法度だ。売り込みをいとわない気概が必要だ。
企業は自社ブランドの宣伝に血道を上げる。個人も見習うべきだ。謙虚すぎ、メッセージの発信を恥ずかしいなどと思っていたら、パーソナルブランドを確立できない。
――法則5「ネットワークをつくれ」、法則6「権力を活用せよ」についても説明してください。
フェファー 人脈があればあるほど、多くのことを達成できる。それがリーダーシップというものだ。権力を活用して功績を残せば残すほど、一緒に働きたいと思ってくれる人や、自分に投資してくれる人が増える。権力は権力を生む。
――「成功が成功を生む」のと同じですね。法則7によれば、「成功すれば、(ほぼ)すべてが許される」ということですが、権力者は、利己的で野心的といった振る舞いも「不問に付される」わけでしょうか。
フェファー ひとたび権力とお金を手にしたら、その人物が、権力とお金をつかむために何をやってきたのかといったことは問題にならない。世間は、偉人や著名人の振る舞いを大目に見て、彼らの名前を冠したコンサートホールや博物館を設立し、著明人の成功に少しでもあやかろうとする。
権力があれば、ほぼすべてのことが許されてしまう。
――権力の法則を象徴する例として、米ヒューレット・パッカード(HP)初の女性CEOになったカーリー・フィオリーナ氏についても触れていますね。
フェファー 彼女は自分自身で打ち明けているが、まだキャリアが浅い頃、会議で男性社員から公正な扱いを受けなかったことで、こう決めたそうだ。「誰も私のことを支持してくれないのなら、私が私自身の支持者になろう」と。人から好かれるかどうかよりも、尊敬され、一目置かれることを重視したのだろう。
尊敬されれば、人々から恐れられることすらあるが、有能だと見なされる。「好かれる」ことと「有能であること」は別物だ。
――女性は、出世や権力の獲得をめぐり、不公正な扱いを受けると指摘していますね。現在でも、女性が組織で権力を握るのは難しいと思いますか。
フェファー もちろんだ。しかし、朗報もある。女性にとって、権力の7つの法則は、男性よりも大きな効果が期待できるという点だ。
特権に恵まれていれば、遅かれ早かれ権力を手にできる。だが、女性のように不利な境遇にいる人々が組織で権力を握るには、むしろ、有利な立場にいる男性より、もっと政治力に物を言わせる必要がある。つまり、権力の法則は、より大きな効果を女性にもたらすということだ。
――とはいえ、女性はルールの順守など、権力の法則とは真逆のことを求められると、警鐘を鳴らしていますね。女性が企業の管理職の4割強を占める米国に比べ、1割前後の日本では、なおさら、そうしたジェンダー的価値観が根強く残っています。
フェファー だが、日本も変わるだろう。高齢化に加え、移民が非常に少ない日本では、いずれ男性だけでは人手不足になり、立ち行かなくなる。人口減という現実を前に、日本は将来、女性の役割を大幅に拡大せざるを得ない状況に陥るだろう。
――日本のように、目立つことを良しとしない社会でも、権力の法則は効果があるのでしょうか。
フェファー むしろ、もっと大きな効果を発揮する。誰もが同じ行動によって、お互いのニーズを満たし合うような社会では、人と違う行動を取ることで目立つ、という効果が期待できる。
周りと同じことをやって成功できる人などいない。
――7つの法則のうち、最も大切なものは何でしょう?
フェファー 法則1の「自分の殻を抜け出せ」だ。権力を得るために最大の障害となる「自分の殻」から脱皮しない限り、成功はおぼつかない。要は、ライバルが何をするかではない。カギは「自分自身」にある。
失敗した場合に備えてプライドを保つべく、自分にハンディキャップを課したり、人から好かれようと躍起になったり、周りからどう見られているか戦々恐々としたり、自分を卑下したりしてはならない。「自信」を持って行動せよ。
「行動経済学」→「組織行動学」
(2023年7月11日14:45 ダイヤモンドクォータリー編集部)