出産費用の「見える化」で
実態に即した診療報酬を設定すべきだ

 保険適用に難色を示す人たちが、理由のひとつに挙げているのが、出産費用の地域差だ。現在、出産費用はそれぞれの施設の自由裁量で決めているが、保険適用して一律の価格にすると、病院を運営していくのに必要な費用と乖離して、経営が成り立たなくなる施設が出る可能性があるという。

 だが、逆説的に言えば、地域や施設によって出産費用に大きな開きが出ているのは、健康保険が適用されていないからで、それが妊産婦の負担に跳ね返っている。

 病気やケガの医療費は全国一律の価格で、医療機関はその診療報酬で運営している。そのなかにも、診療報酬だけでは厳しい運営が強いられている施設もあるはずで、産科だけ特別扱いを続けるのは理屈が成り立たない。

 厚生労働省では、これまでブラックボックスだった出産費用の内訳を明らかにする「見える化」を、2024年4月から行う予定だ。これをもとに、無理なく経営していけるだけの診療報酬体系を整えれば、自然分娩に健康保険を適用しても、産院の廃業を防げるはずだ。

 診療報酬には、一定の施設基準をクリアしている医療機関に対して加算をつけるシステムもある。医師や助産師の人数、設備内容などに応じて、必要な加算をつけるようにすれば、診療報酬の上乗せもできる。また、医師不足の地域で産科を経営する施設に対しては特別な地域加算をつければ、産科医を呼び込むための資金が確保できるようになる可能性もある。こうした加算を活用すれば、施設ごとに異なる経費を、一定程度吸収できるのではないだろうか。

 その一方で、健康保険が適用されることで、妊産婦の負担は経済的な負担能力に見合ったものにできる。

 通常、70歳未満の人は、かかった医療費の3割を負担する。だが、医療費が高額になった場合は高額療養費が適用されるので、5段階の所得区分に応じて自己負担額に傾斜がつくようになる。

 たとえば、自然分娩の診療報酬が50万円だった場合、3割負担だと15万円。年収770万円以上の人は、高額療養費の自己負担限度額の範囲なので、自己負担額は15万円のままだ。しかし、年収770万円未満の人は、自己負担限度額を超えるので高額療養費が適用される。それぞれの負担額は、370万~770万円未満の人が約8万円、年収370万円未満の人は5万7600円、住民税非課税の人は3万5400円となり、所得に応じて負担が軽減される。

 健康保険の適用により、出産費用も所得に応じた負担となり、住んでいる地域に関係なく、公平な負担とすることができるのだ。