疑問に思った税理士がAさんに事情を聞くと、Aさんは打ち明けてくれたといいます。「実は先生には言っていなかったことなのですが、○○証券に、亡くなった父と母と、私の口座があるんです」と。
詳しく聞けば、亡くなったお父さん名義の口座、すでに亡くなっていたお母さん名義の口座、そしてAさん自身の口座には、それぞれ4000万円相当の株式が入っているといいます。
隠しごとをされると、税務調査では白旗を揚げるしかなくなる
税務調査に入られる段になって、これほどの事実を初めて聞かされるとなると、税理士としては正直、手の打ちようがありません。
税務調査では、亡くなった方の配偶者や子、孫名義の財産のうち、実質的に亡くなった方の財産(名義財産)がないかどうかを徹底的にチェックします。そして名義財産と認定されたものは、故人の遺産と合算して相続税を支払うよう迫ります。
Aさんは、お母さんが亡くなったときも、お父さんが亡くなったときも、証券会社に預けられている株式については申告せず、見て見ぬ振りをしていました。税務署に目をつけられてしまうのも必然です。
このような状態で税務調査に来られると、税理士としてはひたすら、調査官に対して白旗を揚げ続けるしかなくなります。下手に繕っても、嘘に嘘を上塗りすることにしかならないからです。
税理士は納税者の味方です。たとえバツの悪い事実を伝えられたとしても、決して咎めたりはしません。土壇場になって白旗を揚げるしかない状況に追い込まれることのないよう、税理士にはぜひ、秘密をつくらないでいただけると嬉しく思います。
(本原稿は橘慶太著『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋・追加加筆したものです)