なぜ市民を守るはずの警察が、刑事告訴を受理しないのか?

 Aさんによると、警察が刑事告訴を受け付けなかったのは、以下のような理由からだという。

理由1:酔っていたAさんの記憶があいまいなため、犯行場所が不明であるから
理由2:Aさんはその日Bと初対面で名前などが分からないため、加害者を特定できないから

 しかし、これは法の専門家からみれば信じられないというか、理由になっていない。仮に犯行場所が不明であったとしても、歩いた時間と店の所在場所などから駐車場の位置はある程度割り出せるはずだ。また、刑事告訴を受理した上で犯人に対し取り調べを行えば、犯行現場は判明するだろう。

 そもそも、犯行現場が分からない時に捜査するのが警察の仕事であるのにもかかわらず「現場が分からないと受理できませんね」と言っているのである。これは法律用語で「懈怠(けたい)」といい、職務に対して適切な注意を払わず、怠っている状態を指す。

 同じく「加害者が特定できない」といっても、Bが勤務していたホストクラブから聞き取り調査を行えば、身元の特定は可能なはずだ。

 そして、告訴状にはできるだけ詳細に日時・場所・関わった人の名前などが記載されているのがベストだが、それはあくまでも捜査に結びつきやすいからという理由であり、「犯行場所や相手の名前が書かれていないから書類として認められない」といった決まりはない。

 Aさんに対応した警察の受付担当者は「犯行場所や犯人については、ある程度幅を持たせた記載で足りる」という法的知識が欠落していたといえる。

 そして、今回Aさんがはっきりとそう言われたわけではないが、実は次のような裏事情も想定される。日々多くの事件の処理を行なう警察では、ごく軽微な事件や民事(借金や不倫など刑事事件に当てはまらないもの)と判断できる事件には、できるだけ捜査の時間や手間を割きたくないという思いがある。

 もちろん、限られた人員や時間をより社会に深刻な影響をもたらす事件の捜査に回したいという心情は理解できるが、Aさんのケースは「望まない性的な行為」であり、レイプは魂の殺人ともいわれる極めて重大な犯罪に当たる。警察としては直ちに捜査を開始すべきで、Aさんの告訴を拒否する理由はどこにもない。