多くの企業に新事業のシーズ(種)はあり、可能性のある商品やサービスを開発できる。しかし、市場に展開する戦略が基本と原則から外れている故に、失敗に終わるケースが多い。成功する確率を上げるためには、新事業戦略の基本と原則を理解する必要がある。

市場のリーダーを目指すか、ニッチな分野で高収益か

 新事業戦略について、大きく二つの方向性がある。新事業で市場のリーダーを目指すか、もしくは高収益でニッチな分野を狙うかだ。前者には4つの、後者には3つの戦略がある。合わせて7つの戦略を、市場や環境、商品・サービスの特性によって使い分け、あるいは組み合わせ、新商品や新事業の成功の確率を上げるのだ。

市場リーダーを目指すための戦略は次の4つ
・先制総力戦略
・弱点攻略戦略
・柔道戦略
・経済価値創造戦略

高収益ニッチの確保を目指す戦略には次の3つ
・料金所戦略
・専門技術戦略
・専門市場戦略

 この中から、特に理解しておきたい「先制総力戦略」、「弱点攻略戦略」、「柔道戦略」について、3回にわたって事例を交えて解説する。1回目は「先制総力戦略」だ。

新市場でリーダーを目指す「先制総力戦略」

 新たな市場を創る可能性のある商品やサービスを開発した際に、とるべき戦略が先制総力戦略だ。新たな市場を自ら創造し、競合の出現する前に資源を投入し、一気にその市場支配を目指す革新的企業の戦略である。成功したときのリターンが最も大きい戦略だが、リスクも一番大きい。この戦略の結果は、市場支配を達成するか、全くの失敗かのいずれかとなる。再挑戦の機会はないと思ったほうがよい。はじめに市場での優位性や主導権を確立できなければ、速やかに撤退するべきである。

 先制総力戦略を成功させるためには、大きな条件がある。新製品や新サービスは、従来のものを改良した程度であってはならない。顧客にとって新しいものである事が必要だ。

 先制総力戦略の事例として、伊藤園が挙げられる。2020年に伊藤園の「お~いお茶」は累計販売数350億本(525mlボトル換算)を達成した。3年連続で緑茶飲料販売実績世界一としてギネス世界記録(TM)に認定された。

 発売は1985年。世界初の緑茶飲料として「缶入り煎茶」のネーミングで登場した。しかし、当時は「お茶はタダで飲むもの」が常識で、「缶入りの煎茶」を取り扱う商店の開拓に苦労した。茶の業界では緑茶を「煎茶」と呼んでいたが、家庭では「お茶」と呼ぶのが一般的だったことから、発売から4年後の1989年に商品名を「お~いお茶」に変更した。それにより一気に売れ出して、清涼飲料市場に緑茶飲料市場という新たな市場が急激に拡大。缶入りの緑茶が無糖飲料の主役となった。「お茶はタダで家で飲むもの」というイメージを一新し、屋外で飲む清涼飲料に変えたのだ。

 清涼飲料業界で後発の伊藤園は、あらたに緑茶飲料市場を創造することによって、清涼飲料市場ではるかに先行していたサントリー、コカ・コーラジャパンに次ぐ売上高3位に上り詰めている。