この先制総力戦略は中小企業には難しいように思いがちだが、ドラッカー教授は次のように言っている。

「大企業にしか使えないわけではありません。この戦略で成功すると大企業に成長することが多いと言うだけのことです。つまり、最初から大企業だったのではなく、大きな目標を持った小企業としてスタートしたのです」。

 むしろ中小企業に向く戦略とも言っている。

「実際、中規模もしくは小規模の企業は、この戦略に向いています。規模が小さいので迅速に動けるからです」。

社員6名でスタートした楽天

 楽天は、日本でインターネットショッピングモールを定着させ、いまでは「楽天経済圏」と呼ばれる会員基盤を活用したビジネスで、70以上のインターネットサービスを提供するコングロマリットとなっている。そのスタートは1997年2月。社員6名の港区愛宕のオフィスからだ。

 当初は資金繰りも苦労したようだ。創業間もない頃に、三木谷浩史社長が某経済出版社に協業をテーマに訪ねてきた。しかし、当時はEC(電子商取引)にさえ懐疑的だった状況で、話は立ち消えた。当時の貧弱なネット環境の上に展開するインターネットのショッピングモールで、本当にモノを買うようになるのか? 経済出版社であっても、日本発のECに将来性を見ることは難しかったのだ。

 しかしインターネットで流通のみならず、あらゆるものが変わったいま、急成長したインターネットサービス業界で革新的なサービスを先駆けて、楽天は日本を代表する企業のひとつとなった。

 楽天はドラッカー教授の言う大きな目標を持った小企業としてスタートし、急激に成長したインターネット市場でリーダーの地位を獲得した。先制総力戦略は、新たに自ら市場をつくることで極めて有効に機能する戦略だ。

 とはいえ、市場リーダーを獲得する先制総力戦略にも弱点があり、弱点攻略戦略をとる企業に対して、もろさを露呈することがある。次回は、この弱点攻略戦略をご紹介する。