知られざるエリート人脈 大学弁論部の正体#3Photo:PIXTA

5人の首相を輩出し、創部120年超を誇る早稲田大学雄弁会は名門弁論部だ。しかし、早稲田の学内で近年、雄弁会をはるかに上回る部員を集め勢力を急拡大している団体が存在する。それが創部30年余りの政治サークル、鵬志会である。雄弁会とは一線を画し、「現場・現実主義」を掲げる鵬志会の誕生の経緯や活動の実態とは。特集『知られざるエリート人脈 大学弁論部の正体』(全10回)の#3では、急台頭する政治“実戦”サークルの正体に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

「現場」で汗流すサークルを
鵬志会は部員が200人規模に

「政治系サークルをつくろう」。1987年、早稲田大学の4年生だった和田有一朗氏(現衆院議員)はそう決断した。卒業まで1年もないのにサークルの立ち上げを思い立ったのには大きな理由があった。

 和田氏は入学前から政治家志望だった。早稲田に入り、名門弁論部である早稲田大学雄弁会の門をたたいた。有力な政治家を相次いで輩出していた雄弁会は、政治家を志す者の受け皿だった。

 しかし、雄弁会でいきなり禅問答のような議論を吹っ掛けられ、和田氏は面食らった。結局、何か違うと思い、入部を見送った。そして、別のサークルを探しているときに出会ったのが、先輩の松原仁氏(現衆院議員)である。

 松原氏は、豊富な人脈を駆使し、和田氏に政治家や政治イベントなどを次々と紹介。和田氏は3年間、政治の現場で汗を流すことができたのだ。充実した大学生活を過ごせたと感じていた一方で、和田氏には悶々とした思いもあった。

「自分はたまたま松原さんに会えたから、こういう体験ができた。自分の体験を還元するため、バトンを誰かに渡していくべきではないか」。自問自答の末に出した答えが、政治サークルの創設だった。

 和田氏の出身高校は旧制中学の流れをくむ兵庫県立神戸高校。同校の校章には「鵬(おおとり)」があしらわれていた。それにちなみ、「鵬を目指す志を持とう」との意を込め、鵬志会と名付けた。

 和田氏の実体験から立ち上げられたことから、鵬志会は「現場・現実主義」をサークルの是に掲げている。この鵬志会の理念が、勢力を拡大していく原動力となる。

 89年の東西冷戦の終結に続き、日本の「55年体制」も崩壊。93年には、非自民政権の細川内閣が発足し、自民党は結党以来、38年ぶりに下野した。

 日本政治の激動期に、鵬志会は政治家の選挙支援などで存在感を増していく。鵬志会のある現役学生が明かす選挙支援の実態は強烈だ。「地方で選挙があれば泊まりがけで手伝いに行く。宿泊費などを自腹で負担することもある」。

 原則的に、政治家の手伝いはボランティアだ。鵬志会をもじり、「奉仕会」とやゆする向きもある。だが、政治家にとって、現場で活発に活動してくれる鵬志会の学生はありがたい存在なのは間違いない。

 鵬志会は90年代後半には、早稲田を代表する政治サークルとして、その地位を不動のものとしている。そして、昨年と今年、新入部員はそれぞれ70人ほど集まった。サークル全体では200人近い規模である。

 活動内容は異なるものの、学内では同じ政治系サークルの雄弁会を凌駕する。そして、全国を見渡してもこれだけの部員を誇る政治サークルは見当たらない。まさに日本一といえるのだ。

 実は、鵬志会が勢力拡大を続けられる、ある“強み”がある。次ページでは、OBや現役生への取材を基に、その強みに加え、異色団体が持つOB人脈も明らかにしていく。