2022年に日本をけん引してきた各界の大物が相次いで鬼籍に入った。「週刊ダイヤモンド」で過去に掲載した大物7人の生前のインタビューを基に、彼らが日本の政治・経済に遺したメッセージを紹介する。特集『日本経済への遺言』(全8回)の最終回では、民主党政権で財務相を務めた藤井裕久氏の2018年のインタビューを再掲する。旧大蔵省出身の藤井氏が「次官のセクハラ」や公文書改ざんなど前代未聞のスキャンダルに揺れた“古巣”の不祥事の原因は「安倍一強政治」にあると総括。一方で、「財務省解体」論には真っ向から反論する。(ダイヤモンド編集部)
“セクハラ”次官は普通の人だった
過去の次官とは「天と地ほどの差」
――文書改ざんなど、今回の一連の問題をどう受け止めますか。
福田(淳一前事務次官)、佐川(宣寿前国税庁長官)の2人は私が政界に転出後、大蔵政務次官(当時)のときに入ってきました。
昭和57(1982)年入省組は当時の大臣(渡辺美智雄氏)の方針で異色の人材を選んだとか、変人が多いとかいわれていますが2人はまったく普通の人です。その2人が役人では考えられないことをなぜしてしまったのか、というのが率直な気持ちです。
セクハラは世の中にはある話ですが、次官という立場でというのは話になりません。「情けない」とOBはみんな怒り心頭に発しています。
次官で思い出すのは、主計局長のときから徹底した歳出硬直化打破のキャンペーンを打ち出し、政治家を説得して回った村上孝太郎氏です。
当時、主査をしていましたが、私のような若手にも、「国民から預かった税金をどう使うかはもちろんだが予算を付けた後のことも考えろ。いったん予算を付けると維持費が掛かり減らすのが大変だ。造った施設がどう使われているかをしっかり見るのも主査の仕事だ」と予算づくりの心構えをがんがん教えられました。
証券不況で戦後初の国債を発行せざるを得なかった。それが慢性化するのでは、という危機感からでしたが、国家財政を支えるという強烈な意識がありました。セクハラ次官とは天と地ほどの差があります。
――国会での虚偽答弁も考えられないことですが。
次ページでは、藤井氏は大蔵官僚として自らが仕えた竹下登官房長官(当時)ら政治家とのエピソードを披露し、「政治と一定の距離を置くことが財務官僚の矜持だった」と断じる。その上で、安倍政権によるゆがんだ政治主導で、「政」と「官」のバランスが崩れたと指摘する。今の政治家に対しては、「国民に人気がなくてもやるべきことをしなければいけない」とし、ポピュリズムに陥っていると舌鋒鋭く批判する。