平日朝11 時台の鎌倉高校前駅平日の朝11時台にもかかわらず、鎌倉高校前駅では多くの人が乗り降りしていた Photo by W.M.

民家の庭へ侵入する事件も発生
観光バスが路上駐車でツアー客を降ろす

 しかし今夏、観光客のあまりの多さが問題となっている。踏切周辺は平日の日中でも70~80人、多い時で100人以上の人だかりができ、警備員の制止を振り切って車道に飛び出したり、ゴミを捨てたりするなど、マナー違反が目立つ。中には民家の庭へ侵入するなど、迷惑行為では済まされない事件も発生している。踏切に関する警察への苦情は、22年の18件から23年の6月末時点で50件近くに激増したという。

 アニメ作品に登場したスポットを巡る「アニメツーリズム」(“聖地巡礼”などとも言われる)は、コロナ禍になる前から人気だった。「新世紀エヴァンゲリオン」なら神奈川県箱根町、「ガールズ&パンツァー」なら茨城県大洗町など、聖地はネットで情報共有され、海外からの来訪客も増えていた。

 江ノ電の鎌倉高校前駅の踏切に今、人が押し寄せるようになった直接のきっかけは、23年5月に新型コロナが5類に移行したことと、映画版「THE FIRST SLAM DUNK」の各国公開による、世界的なスラムダンク熱の高まりが、重なったことに尽きるだろう。

 ただし背景として、江ノ島~鎌倉の一帯は、江ノ電の親会社である小田急電鉄の施策によって「インバウンドに長期滞在を勧めるエリア」として位置付けられている影響もあるはずだ。小田急は、インバウンド専用の割引周遊券「箱根鎌倉パス」を発売するなどし、20年度までにグループのインバウンド関連収益230億円を目標に掲げていた。

 とはいえ、鎌倉高校前駅周辺は典型的な住宅街であり、住民は観光の盛り上がりを手放しで喜んではいない。そもそも、この駅は鎌倉高校への通学をはじめ、通院や買い物など地域利用のためにあった。インバウンドを含めた観光客が大挙して訪れれば、オーバーツーリズムが発生するのはある意味、当たり前だ。

 地元の人に話を聞いてみると、警備員が常駐する山手側だけでなく、海側を走る国道134号(片側1車線)で観光バスが路上駐車してツアー客を降ろそうとするなど、新たな悩みが次から次へと発生しているという。