抽象的なバリューをそのまま行動評価に組み込むと、評価者も被評価者も本質の理解に至らないまま表面的な評価に終始してしまい、バリュー体現を促す制度になりません。また、お互いのバリューに対する認識や理解も食い違う可能性があり、納得感の低い行動評価になってしまう懸念もあります。
そこで、抽象的な表現であるバリューをより具体化することが必要です。これをバリューの翻訳と呼びます。翻訳のイメージができるように簡単な例を示します。
言語化したバリューは
「平易短文」を意識する
「チームワーク」に関するバリューを評価基準に翻訳した例図表:本書より 拡大画像表示
1つのバリューに対して、GoodとNGをそれぞれ5~7つ程度設計することでバリューの理解に役立ちます。翻訳の合言葉は「平易短文」です。なぜなら、行動評価の基準は現実的に人を動かす文章(文字)になるからです。日々の仕事の中で「こう動いてほしい」「こう考えてほしい」「迷ったらこっち」など、個人と組織を実際に動かすテキスト情報が長くて冗長だと理解(認知)のしにくさに起因して反発を引き起こしてしまう可能性があります。「短い」は正義です。不要な要素をそぎ落とすことでバリューの「本質」を抽出します。
この評価基準の設計は、誰にでもすぐにできるほど簡単ではありません。納得のいく品質にたどり着くには一定の経験と訓練が必要です。「できない」と投げ出さずに、まずはアウトプットし何度も現場からフィードバックをもらいつつ、不要な要素は思い切って捨てて研ぎ澄ましていきましょう。このように粘り強く思考・アウトプットし続ければ、「こういうことか」という光が見えてきます。
行動評価にバリューを組み込む
スタートアップの事例
『スタートアップのための人事制度の作り方』(翔泳社)金田宏之 著
バリューを行動評価に組み込み運用している事例として、モノグサ社を取り上げます。同社は「記憶を日常に。」をミッションに掲げ、記憶領域の課題解決に取り組む企業です。あらゆる知識を確実かつ最小限の負荷で身に付けることができる、記憶のプラットフォーム「Monoxer」の開発と運営をしており、学校や塾を中心とした教育機関をはじめとして、外国人の方の日本語習得や社会人の資格取得、研修などの幅広い分野で活用されています。
モノグサ社では、ここでいう「行動評価」を「価値観行動評価」と名付けました。人事制度設計のプロジェクトをスタートする前に、バリューとそのバリューを具体化した行動指針までができ上がっており、制度設計のタイミングで行動指針の翻訳を行い評価制度に接続しました。
本稿では、4つのバリューのうち「人類への奉仕」というバリューと、そのバリューから導かれた3つの行動指針についてGood事例・NG事例を紹介します。後ほど紹介しますが、実際の人事評価では行動指針それぞれに対して定性的な尺度で評価する形式を取ります。なお、モノグサ社では、評価制度を運用する中で「Goodな評価基準」「NGな評価基準」として定義すると、解釈が多少狭くなってしまうという意見から「Good事例」「NG事例」という表現に修正しました。運用過程で自社流にカスタマイズしたケースです。
行動評価の価値基準 モノグサ社の価値観行動評価の事例図表:本書より 拡大画像表示
モノグサ社の経営陣との会議では、「本質的インパクト」「全人類」「スケーラブル」「組織拡張」「無意識のバイアス」といったワーディングがよく飛び交います。意識的に強調する場面もあれば無意識的に発している場面もあり、普段から使っていることがわかります。このことから、バリューや行動指針が自然とコミュニケーションの中で使われ、カルチャーとして定着していることを強く感じます。







