(2)多様な人材でチームが構成される

 スタートアップは、中途採用を通じて専門性によって貢献できる即戦力人材を集めます。異なる会社で経験を積んだメンバーによって構成されるチームの多様性は、新卒採用で構成されるチームの多様性とはまったく別物です。ポジティブな創発も期待できる一方、ネガティブな衝突も起きるため、仲間集めの基準としてバリューが必要になります。過去の経験や専門性は違っているとしても、判断や行動などの基準となるバリューが擦り合うかどうかを見極める必要があります。世間一般でいわれるカルチャーフィットとは価値観が合うこと、つまり結果として同じように認識・思考・判断・行動できることを意味します。

 バリューが言語化されていないとこの見極めができず、入社後の協働やコミュニケーションにも時間とストレスがかかってしまいます。新卒採用で何十人、何百人と採用して新入社員研修からスタートする組織では、バリューがなくとも「同じ釜の飯を食う」ことで強固なカルチャーが醸成され、あえてバリューを強調しなくても組織は自然と「右に倣え」ができるようになります。

 しかし、スタートアップはこうはいきません。カルチャーをこれからつくっていくフェーズであり人材の多様性も高いという特徴があるため、言語化されたバリューで判断・行動の基準をきちんと示すことが必要です。

(3)採用の決定打になり得る

 スタートアップの人事において、最も重要な領域は採用です。ビジョン・ミッションの実現に貢献できる人材を採用するために、自社のことを的確に伝えなければいけません。この情報発信を大いに促してくれるのがバリューです。バリューは、判断や行動の基準として「仕事の仕方」や「モノの考え方」を想起させてくれるため、バリューの発信が採用候補者の会社理解に役立ち、結果としてアトラクトにもつながります。

 スタートアップに入社(転職)する理由には、ビジョンやミッション、事業やプロダクト、人や組織、インセンティブなどがあります。「ミッションに惹かれた」「プロダクトの社会的価値が高い」「気の合いそうな人が多い」「ずばりストックオプション」などの他に、「バリューが自分の価値観とも合っていた」の威力は絶大です。

 どの会社も同じような仕事が並んでいる中で、「仕事の仕方」や「モノの考え方」を強く方向付けるバリューは、転職先を自分自身に納得させるための格好の理由であり決定打となります。