イングランド銀行は資産買い入れ基金の保有資産の売却も行っており、この3年は特に大きな損失補塡が見込まれている。損失補塡の累積は、黒字期の納付額を差し引いた純額で、2033年までの期間で1500億ポンド強、円換算で26兆円程度の見込みだ。補塡累積額は政策金利の動向などに依存するので、今後も変動するだろうが、資産買い入れ政策は政府と中央銀行を合わせた統合政府で見て、結果的に大幅な累積赤字を生む可能性が大きいということだ。
FRBも自己資本は毀損されなくても、昨年9月から政府への納付金はゼロで、累積赤字が解消されるまで納付は再開されない。景気の大幅悪化なしに高インフレを克服できなければ、財務の悪化による納税者負担増は中央銀行批判に拍車を掛けるだろう。
日本銀行では昨年度の納付金は2兆円弱と巨額で、財政が厳しい中、出口戦略とそれに伴う財務の悪化は政府にとっても関心事だ。それら情報発信が海外と比べて非常に少なく、日銀は出口のシミュレーションと、財務や納付金の見込みについての試算を示し、課題を国民と共有すべきだ。
なお財務の制約を意識すると、利上げや量的引き締めのスピードなどに影響が及び得る。本来国民に属する運用益(通貨発行益)を日銀がどの程度自由に使えるのかという財務の制約に係る課題も、オープンの場で議論が必要だ。
(キヤノングローバル戦略研究所 特別顧問 須田美矢子)