高まる中国発の世界的なリスクオフの懸念

 8月25日、米ジャクソンホール会合での講演で、FRBのパウエル議長が「インフレ率は高すぎ、追加利上げの用意がある」と発言した。目先、米中の金利差の拡大などを背景に、人民元の為替レートの不安定感は高まる可能性がある。

 共産党政権の政策スタンスも懸念材料だ。現在、中国の年金や医療など、社会保障制度に対する国民の不安は徐々に高まっているようだ。そうした状況下、習政権は金融緩和によって不動産企業や、地方政府傘下の融資平台(LGFV)などの投資会社の借り入れを支援し、経済環境の悪化を食い止めようとしている。

 今のところ、金融緩和政策の効果は顕在化していない。むしろ、債務問題は深刻化しそうだ。習政権は不良債権処理や構造改革に関する踏み込んだ政策を発表していない。経済よりも政治基盤の強化を重視しているようにもみえる。

 債務問題が深刻化すると、支出を減らして負債の返済を急ぐ企業や国民が増えるだろう。バランスシート調整(資産価格が大幅に下落した場合、その後の経済主体の支出活動が抑圧されるプロセスのこと)へのプレッシャーが強まり、デフレ経済が深刻化する可能性は高い。

 それが現実になると、わが国やドイツ、アジア新興国などの対中輸出に少なからぬ影響が出るだろう。世界全体でも、経済成長率が低下する懸念が高まる。主要投資家も企業経営者も、リスク回避的な行動を取るようになるだろう。

 そのタイミングで、中国経済が一段と低迷するようだと、中国株を売却する主要投資家は増え、人民元はさらに下落することが想定される。そして今後の展開次第では、世界の株式、低格付けを中心とする債券、米国の商業用不動産、新興国通貨、中国が一定需要を占める銅や鉄鉱石、原油などの価格が下落する恐れが高まる。そうなると世界経済の先行き不透明感は急上昇する。

 人民元の下落をきっかけに、世界的にリスクオフが発生する可能性は無視できない。