若年層失業率を公表できないほど経済悪化?

 2023年初来からの人民元の推移を振り返ってみよう。2月頃までは米金利の上昇によって、人民元への売り圧力が高まったとみられる。その後、ドル金利の上昇だけで説明が付きにくい人民元売りが続き、5月上旬から6月下旬にかけて人民元は1ドル=6.9ドル台から7.26元台に下落した。

 7月、共産党政権は通貨安に対応するため、中国人民銀行の総裁に潘功勝氏を任命した。同氏は、易綱前総裁と同じく党内の序列は低いものの、海外の金融機関での勤務経験を持ち海外投資家の動向に明るいとみられていた。習政権は、相対的に海外経験が豊富でグローバルな金融実務に精通した人物を中銀トップに置き、主要投資家への配慮を示そうとしたのだろう。新総裁の金融政策を見極めたいとの思惑も加わり、7月上旬、人民元の売り圧力はやや弱まった。

 しかし、それはごく一時的だった。7月下旬以降、人民元の下落圧力は強まった。不動産開発大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)や、恒大集団(エバーグランデ)の経営不安が上昇したからだ。債務不履行への懸念が、信託商品や理財商品のデフォルトリスクを急上昇させた。一部の信託商品は実際にデフォルトしデモも起きた。

 8月15日、共産党政権は推計方法の改善を理由に、若年層の調査失業率の公表を一時中止すると発表した。「公表できないほど中国経済は悪化し、かなり厳しい状況に追い込まれている」との見方が広まり、同日、人民元は1ドル=7.30元台に下落した。

 その後、習政権は国有銀行に為替介入(人民元の買い支え)を強化するよう指示した。一部の銀行に対し、海外投資を控えるよう指導したとも報じられた。売り圧力は中国の共産党政権が影響力を強める香港ドルにも波及した。