深刻化する中国経済が抱える構造問題
人民元下落の背景として、経済成長を支えたメカニズムの機能不全が起きていることがある。中国のGDPの需要項目を見ると、投資(総資本形成)の割合は、個人や政府の消費を上回る。これまで、中国経済は投資の増加によって高い成長を実現してきた。
ところが、不動産バブルが崩壊に向かい不動産投資による成長は難しくなった。これまで地方政府は、不動産開発業者に土地の利用権を売却し、歳入を確保してきたし、共産党政権もマンションの供給増加を支援してきた。世界的な低金利の長期化も、不動産価格上昇への期待を支えた。投機熱も盛り上がり、カントリー・ガーデンなどの開発企業は借り入れによって建設を増やした。
こうした不動産投資の増加が、生産、雇用と所得の機会、地方政府の税収などを支えた。産業補助金政策も強化され、企業の設備投資が活発になり、インフラ投資も増えた。コロナ禍が発生するまで、投資を出発点に中国経済は高い成長を実現してきたわけだ。
中国全土の工業化も00年代以降、加速した。農村部から沿海部の工業地帯へ、安価で豊富な労働力が供給された。海外企業からの技術移転も加速し、中国は世界の工場の地位を確立。リーマンショック後は、世界最大の消費市場としての重要性も高まり、海外からの対中直接投資も増えた。
しかし、20年8月の「3つのレッドライン」をきっかけに、不動産バブルは崩壊に向かい始めた。不動産業界、地方政府の債務問題は深刻化し、理財商品などがデフォルトする懸念が高まった。「理財商品には政府の“暗黙の保証”が付いている」といった個人投資家の思い込みは強く、それもあってなおさら理財商品や信託商品市場の悪化が、共産党政権の求心力の低下につながるとみられている。
また、米中対立や、台湾辺境の緊迫感が上昇するなどの地政学リスク、人件費高騰などを背景に、グローバル企業は脱中国の動きを見せるようになった。産業支援策が強化されている別の国や、人件費が安いインドやベトナムなどに生産拠点を移す多国籍企業が増えている。この点も、中国の雇用や所得環境の悪化につながっている。