『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
すいません、勉強でアウトプットは大事だと聞くんですが、アウトプットの定義が曖昧でどういったプロセスがいいのか判断できかねます。どういうことをする事がアウトプットなのでしょうか? 個人的には、実践してみる、自身が他人に説明できるようになる、体系的にまとめなおす、などだとおもうのですが。
学んだことを思い出す、これだけでも立派なアウトプットです
[読書猿の回答]
多分「勉強でアウトプットは大事」とか言ってる人は、自分でも何を話しているのか分かっていないのだと思います。定義できなければデータも取れないので、実証もできないはずなんですが。
今思いつくもので研究結果を紹介できる「効果のあるアウトプット」はテストです。
Roediger III, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). The power of testing memory: Basic research and implications for educational practice. Perspectives on Psychological Science, 1(3), 181-210.
テストといっても「学んだことを何も見ずに思い出しながらできるだけ書き出す」程度で効果があります。実に「意識低い」感じがしますが、これも効果あるアウトプットです。
もう一つ、アウトプットの重要性で思いつきました。記憶研究のロフタフらの記憶を書き換える実験です。同じ事故について「どんな接触でした?」と尋ねるのと、「どんな激突でした?」と尋ねるのでは、その後に記憶される事故の規模も印象も大きくことなってしまう。
つまり想起の方向付けによって、どんな風に思い出すかによって、記憶の意味付けはもとより、記憶自体が変わってしまう訳です。
これを敷衍すれば例えば、専ら試験でのみ想起された知識は〈試験向け〉と意味づけされ、試験以外には思い出されることがなくなるかもしれません。
ほとんどの人にとって、学校で学んだことが学校以外には持ち出されず忘れられるという事実は、長らく教育関係者や教育関連諸学で問題にされてきました(中等教育で教えられる程度の知見すら無視され、トンデモな政策が支持され続ける遠因だと考えられるので)。
想起の方向付けによる記憶改変の実験は、どんなインプットをしたかだけでなく、どこで何のためにアウトプットしたか、そのためにどんな風に思い出したかの重要性を教えているのかもしれません。