深刻な人手不足とインフレ率の高止まりは、少なくとも23年中は続くだろう。24年春闘でも23年並みの高い賃上げ率が実現する可能性は低くない。

 一方、価格転嫁の波に乗れない企業は、労働力も確保できず市場から淘汰されるだろう。国内の労働力人口は長期的に減少し、熾烈な人材獲得競争が続くと見込まれるからだ。

 こうした中、多くの企業は、年功序列の見直しやジョブ型雇用の推進など雇用慣行を転換する時期に来ている。社内競争の強化と人員配置の最適化という二兎を追う余地は大いにあろう。

 政府は、リ・スキリングによる能力向上支援、個々の企業の実態に応じた職務給の導入、成長分野への労働移動の円滑化という「三位一体の労働市場改革」を着実に進めるべきだ。特に、リ・スキリング支援で個々に合った技能を集中的に高め、さらに労働移動を円滑化することで雇用のミスマッチを減らす。結果として、経済全体で人的資本を効率的に蓄積できる。

 このように、労働者数の減少という量の問題は、労働の質を改善することで一部補完できる。政府と企業に求められる役割は大きい。

(大和総研 シニアエコノミスト  久後翔太郎)