物価上昇に負けない賃上げでも
消費に活力が出ると期待できず
消費者物価は物価安定目標の2%を超える上昇を続けており、賃上げに踏み切る会社も増えている。今年の春闘の賃上げ率も過去に比べ高い水準となっている。
岸田首相も経済界に賃上げを求めるなど、いまや「物価上昇に負けない賃上げ」が「デフレ脱却」に代わる国を挙げてのスローガンになった感もある。来年の春闘でも賃上げの流れは続きそうだ。
これまで人件費が抑えられて、労働分配率の低下が続いていた。このことが日本経済の活力を削ぐ要因の一つであったとすると、ここにきての賃上げムードの広がりはポジティブに評価すべきだろう。しかし、物価が上がったから賃金も上げましょうというのでは、物価に合わせて賃金を決める従来型の組合交渉のスタイルが、インフレとともに復活しただけだ。
1990年代後半以降の賃金カットの厳しさを考えれば、これまでより高い賃上げが数年続いたとしても、人件費が抑えられていた構図が転換したとまでは言えない。人手不足が深刻になっていることが賃上げ率を高めている可能性はあるものの、個人消費に活力が出てくることまでは期待できない。賃上げはプラス要因ではあるが、賃上げが続けば日本経済の問題が解決すると考えるのは楽観的過ぎる。