第21作『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』
寅さんらしいストイックな美学
封切日:1978年(昭和53年)8月5日
マドンナ:木の実ナナ
ゲスト:武田鉄矢、竜雷太
主なロケ地:熊本県田の原温泉
「青年。女にふられたときは、じっと耐えて、一言も口を利かず、黙って背中を見せて去っていくのが、男というものじゃないか。」
このセリフは、男がフラれた場合にどう対処すべきか。武田鉄矢演じる恋愛経験の乏しい留吉青年に寅さんが指導しているシーンで登場します。
失恋経験がある人ならわかるでしょう。失恋の苦しみを乗り越えるために、いろんなことを試みるのだけれど、どんなことをやってみても、去った恋人が戻ってくるわけがありません。何をやっても無駄なのです。
悪あがきという言葉がありますが、失恋後に口を開けば開くほど、男としてみっともない様をさらすだけ。寅さんは、失恋の達人ですから、そのことを大変よく心得ている。そこで留吉青年に、こう伝えたのです。
「青年。女にふられたときは、じっと耐えて、一言も口を利かず、黙って背中を見せて去っていくのが、男というものじゃないか」
無駄なことをするぐらいなら、じっと黙って引き下がるのが男らしいという教えです。
失恋したら恨み節を言うな、言い訳もするな、ただひたすら黙っていろ。これが寅さんの教えです。時代を問わず、世界中で通用する対処法かもしれません。
年がら年中旅をしている寅さんは、失恋するとその場から消えます。カバンを持ってスッと立ち上がり、「あばよ」と言ってまた旅の人になるのです。
ただひたすら時間が経ち、失恋の傷が癒えるまで、日本のどこかを旅している。フラれた後がたまらなく格好いいのが寅さんなのです。だから世の男性たちは寅さんに憧れるのでしょう。
「男はつらいよ」主題歌の歌詞にもあるとおり、男というものはつらいもの、顔で笑って腹で泣くんだ、それが男なんだよ……。これが粋を重んじる江戸っ子の生き方の理想であり、寅さんらしいストイックな美学でもあるのです。
令和の現代においても、「寅さんの言うとおりだな!」と思わせてくれるセリフであってほしいですね。
いまはフラれると相手に粘着したり、自分の正当性を主張したいがために、LINEを他人に公開してしまったり、交際時に撮影した写真をばらまいたりする人がいますね。それがどれだけみっともないことか。寅さんに一度叱られたほうがいいでしょう。