第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』
寅さんからの初めて愛の告白

封切日:1995年(平成7年)12月23日
マドンナ:浅丘ルリ子、後藤久美子
ゲスト:夏木マリ、田中邦衛
主なロケ地:兵庫県神戸、岡山県津山、鹿児島県奄美大島、鹿児島県加計呂麻島

「男が女を送るっていう場合にはな、その女の家の玄関まで送るっていうことよ。」

 渥美清が演じ続けた「男はつらいよ」の最後を締めくくるにふさわしい作品です。マドンナは浅丘ルリ子演じるリリー。もう本当にお似合いのカップル。さくらが夢見た寅さんとリリーの結婚は、果たして現実になるのか。これが見どころの作品です。

 作品の終盤、寅さんはリリーを連れて柴又に帰ってきますが、また口論になり、リリーは出て行こうとします。さくらにうながされ、寅さんはリリーの後を追います。タクシーに寅さんとリリーが乗り込み、寅さんの口から最高に粋な名ゼリフが飛び出します。

リリー「ねえ、寅さん、どこまで送っていただけるんですか?」

寅さん「男が女を送るっていう場合にはな、その女の家の玄関まで送るっていうことよ」

 惚れた女のためなら、どんなに遠くたって家の玄関まで送って行く。どこまでも俺はついていくぜ。これは寅さんからリリーへの愛の言葉です。寅さんから初めて愛の告白を聞いたリリーの表情に幸福感が満ちていく―――たまらなく感動的なシーンです。

「男はつらいよ」という作品は、題名からして「男」だとか「女」にこだわり続けてきました。最近はジェンダーレスの時代ですから、男にしかわからないとか、女のくせにとか、性差に基づく表現を控える傾向にあります。

 でも、「男はつらいよ」シリーズは26年間にわたって車寅次郎という男の成長を描いた物語です。全作品を観れば、男尊女卑や女性蔑視がテーマの映画ではないことぐらいわかるはずです。

「男はつらいよ」が面白いのは、寅さんと甥っ子の満男だけが成長する物語だからです。年齢を重ねても凝り固まることなく、つねに成長をやめない男の物語だから、寅さんは愛されるし、面白くて楽しい。ずっと繰り返し観ていたくなるのです。

 ジェンダーレス社会が進み、男にしかわからない粋な表現、女にしか理解できない機微みたいなものが消滅したら、日本の文化は恐ろしく薄っぺらなものになるでしょう。

 日本人が「男はつらいよ」と古典落語を理解しなくなったとき、それは日本文化が終わるとき。日本人が日本人でなくなる日本人最後の日……。そんな日が来ないことを切に願いながら、私はこれからも繰り返し「男はつらいよ」を見続けることでしょう。