人材の定着や獲得のために
仕事の面白さや働きがいの訴求も重要
次に、ゼネコン大手5社の職場環境に関する評価から強みや特徴を探る。下表は、23年にOpenWorkに投稿されたデータ(1月1日~9月30日)を集計した、5社と全業界の平均スコア比較だ。
5社の総合評価は5点満点中3.24点となり、全業界の3.06点を上回った。「待遇面の満足度」「社員の士気」「社員の相互尊重」「20代成長環境」「人材の長期育成」の5項目のスコアは高い傾向が見られた。このうち、「人材の長期育成」は3.10点となり、全業界(2.64点)より0.46点上回り、社員の育成面に強みがあることが考えられる。実際、5社の社員クチコミには社員の資格取得をサポートする講習があること、入社時の研修が手厚いことを評価する声が寄せられた。
ゼネコンが手掛けるプロジェクトは人々の生活を支える大規模なものが中心となるため、多くの関係者と円滑に仕事を進める必要がある。仕事量は多く、若手の頃から社会に与える影響力の大きさを意識した仕事の取り組み方が求められるといえよう。
以下の社員クチコミ(原文ママ)からは、そうした厳しい環境だからこそ成長でき、次世代にも残るようなものづくりに携わることが働きがいにもつながっている様子がうかがえる。
「若い頃から物事を俯瞰して把握するような仕事への取り組み方を鍛えられる。適切なタイミングで国家資格の取得が必要となってくることもあり、理論と実践のバランスは比較的とりやすい業態であると思う」(技術、現職、男性、鹿島建設)
「規模の大きい仕事が多く、特に建設現場における仕事はインフラやアイコニックな建物など誰もが知るようなものだったりするため、それに関われるという醍醐味は大きく、働きがいがある。資格取得は常に奨励されており、社内での講習など様々な分野の資格取得についてサポートがある。規模が大きいので短期的なキャリアパスを構築するのは難しい。様々な部門を経験できるので、自分の適性を知ることができる」(事務、現職、男性、大林組)
「仕事量が多い分、成長はできる。繰り返しの作業は少なく、常に新しいことを学ぶため能力は上がると思う。また判断力や対応力の速さや柔軟性が常に求められるため、成長は出来る環境だと思う」(施工管理、現職、男性、清水建設)
「日々変わっていく現場を目にすると、ものづくりをしている実感を得られ、社会貢献への貢献度合いを感じることが多くあった。1年目から現場管理のため、年齢が大きく離れた下請け作業員とのコミュニケシーションが重要となり非常に鍛えられた。また、現場管理能力として、工程管理や原価管理など、幅広い分野で管理をしていく必要があるため、鍛えられる」(土木施工、現職、男性、大成建設)
「様々なステークホルダーと関わり合いながら建物をつくっていくことが楽しいと感じた。また建設業の最前線を知ることができる貴重な経験ができる。一年目には新社員研修があり非常に手厚い。キャリアについても相談に応じてくれて、機を見て計らってくれる。海外なども志望をだせば積極的に送り出してくれる」(建築設計、現職、男性、竹中工務店)
「2024年問題」への対応を巡っては、すでにゼネコン大手の一部が受注段階で、週休2日を確保できる工期を原則とする方針を打ち出すなどしている。
建設業界では、国や自治体、民間企業などの施主がゼネコンと呼ばれる元請け業者に対して工事を発注し、元請け業者はさらにそれぞれの専門や技術に特化した下請業者に工事を発注する。複数の企業が階層化する建設業界において、ゼネコン大手が率先して改革に取り組むことが求められている。
長時間労働の改善や人手不足といった課題が山積する一方、多くの関係者を巻き込み、一つの仕事を成し遂げる一体感や、人々の生活を支える仕事の醍醐味は代えがたいものといえる。人材の定着や獲得のためには、働き方の根本的な改善を進めることはもちろん、仕事の面白さや働きがいなどの魅力を訴求することも重要だろう。