企業がデザインの力を活用するために必要なこととは

──DOOは今後どのような取り組みに重点を置いていきますか。

 7月に幹事団体のバトンをJPDAに渡し、現在は幹事団体理事長の小川亮氏のリーダーシップの下でDOOの会議で活発な議論が始まっています。これまでは各団体の交流促進が優先課題でしたが、今後は企業をはじめ、社会全体にデザイナーの役割や機能を広報することを強化すべきという声が上がっています。例えば、現在DOOが運営している「JAPAN DESIGNERS」というサイトがあります。現状はデザイナーや作品を紹介することにとどまっていますが、日本のデザイナーを応援できるような素敵な企画を実現できればいいと思います。

 個人的には、世界と日本のデザインコミュニティーをさらにつないでいきたいと思っています。日本のデザインには先人たちが積み重ねてきた歴史とクオリティーによる世界的なリスペクトが今もあります。その一方で、我々のような日本のデザイン団体は、世界のさまざまな会合においてリーダーシップを発揮できているのか、さらに日本のデザインを世界に届けられているのか、自問しなければなりません。

──デザイナーの話になりましたが、より領域が融合していく時代に向けて、デザイナーにはどのような姿勢が求められるでしょうか。

 私はデザインや人間の創造性という現象を、生物の適応進化に類似するものとして捉えています。偶然による「変異」によって多様性が生まれ、環境がもたらす選択圧が「適応」に導くことで次世代が生き延びていく──。個人や組織も同じで、クリエイティブであるためには、偶然の変化を受け入れ、加速する。さらには思い込みを忘れてまっさらな心で社会を観察し、必然性から在り方を選択する。この往復を続けていけば、いずれ社会に適応します。しかし、狭い業界や企業の中に閉じていると、惰性で古い選択圧にしがみついたまま、社会とずれていき、いずれ淘汰されることになるでしょう。

 そもそもデザインは、変化の時代にこそ必要です。新しいことを試すには、必ずその手前でパースやプロトタイプが要る。そんなふうにデザインには未来の出現を早める力がありますから、JIDAが戦後、日本の産業の黎明期に立ち上がったのもデザインに対する政治や経済からの期待感によるものでしょう。特定の分野の職人になって状況の変化を「待つ」より、専門性の高いスキルセットを生かして新たなイシューに自らタックルしていく。それがデザイナーの健全な姿勢だと思います。

──では、企業がデザインの力をもっと活用するためにはどうすればいいでしょうか。

 インハウスデザイナーを抱えている企業なら、デザインチームを外の風に当て、切磋琢磨する場を活用するといいと思います。そのためにDOOに所属するデザイン団体などが活用できるはずです。日本のデザインには、それぞれの分野で世界に通じるクオリティとそれに対する高い評価がある。そこに自社のデザイン組織のメンバーを放り込んで切磋琢磨してもらえれば、交流の中からビジネスの「適応進化」が加速すると思います。

デザインの適応進化を加速せよ──太刀川英輔が語る、デザイン団体の変革の理由Eisuke Tachikawa
NOSIGNER代表/公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会理事長/進化思考家/デザインストラテジスト/慶應義塾大学特別招聘准教授/2025大阪関西万博日本館基本構想クリエイター。
希望ある未来をデザインし、創造性教育の更新を目指すデザインストラテジスト。産学官の様々なセクターの中に変革者を育むため、生物の進化という自然現象から創造性の本質を学ぶ「進化思考」を提唱し、創造的な教育を普及させる活動を続ける。プロダクト、グラフィック、建築などの高いデザインの表現力を生かし、SDGs、次世代エネルギー、地域活性などを扱う数々のプロジェクトで総合的な戦略を描く。グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞他、国内外を問わず100以上のデザイン賞を受賞し、DFAA(Design for Asia Awards)、WAF(World Architecture Festival)、グッドデザイン賞等の審査委員を歴任する。
主なプロジェクトに、OLIVE、東京防災、PANDAID、山本山、横浜DeNAベイスターズ、YOXO、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。著書の『進化思考』(海士の風、2021年)は生物学者・経済学者らが選ぶ日本を代表する学術賞「山本七平賞」を受賞。他に『デザインと革新』(パイ インターナショナル、2016年)がある。