定年前後の決断で、人生の手取りは2000万円以上変わる! マネージャーナリストでもある税理士の板倉京氏が著し、「わかりやすい」「本当に得をした!」と大人気になった書籍が、2024年の制度改正に合わせ改訂&パワーアップ!「知らないと大損する!定年前後のお金の正解 改訂版」として発売されました。本連載では、本書から抜粋して、定年前後に陥りがちな「落とし穴」や知っているだけでトクするポイントを紹介していきます。
「生前贈与」の制度変更を知っておこう
定年前後世代の老後資金は、親からの遺産相続でも大きく左右されます。相続税の対策の一番人気である「生前贈与」に対する税金が、2024年から大きく変わります。変わるポイントは2つ。
①「暦年贈与」の相続税節税効果が少なくなる
②「相続時精算課税制度」の使い勝手がよくなる
順番にご説明していきましょう。
①「暦年贈与」の相続税節税効果が少なくなる
暦年贈与とは、1年間(1月1日~12月31日まで)の贈与額(もらう額)が110万円を超えた場合に贈与税がかかる贈与方法です。前項目でご説明したように、この110万円の非課税枠を使って贈与することで、相続税を節税することができます。
これまでは、子どもや妻など相続で財産をもらう人への暦年贈与のうち、亡くなった日からさかのぼって3年以内のものは、110万円以下の贈与であってもすべて相続税の計算対象とされていました。これは、相続税の負担を軽くするための亡くなる直前の駆け込み贈与を防止するための措置です。これが2024年以降の贈与から、その期間が7年に延長されます。
つまり、亡くなる前7年間の贈与は、相続税対策としては基本意味がなくなるということ。相続税の節税効果が今よりも減少してしまいます。
②「相続時精算課税制度」の使い勝手がよくなる
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子・孫などに対し、財産を贈与した場合に選択できる制度です。
贈与した時には、トータルで2500万円までは贈与税がかかりません。2500万円を超えた贈与については、一律20%の贈与税がかかります。2500万円の枠は1年で使い切ってもいいし、何年かにわたって使ってもいいことになっています。そのかわり、贈与をするたびに、110万円以下でも申告をする必要がありました。
「2500万円まで贈与税がタダなら、めちゃくちゃいいじゃん!」と思いそうですが、名前の通りこの贈与は「相続時に精算」されます。つまり、この制度を使った贈与はすべて相続税の計算対象となっていたのです。しかも、一度「相続時精算課税制度」を選択してしまうと、それ以降の贈与で「暦年贈与」を選択することはできません。そのため、相続税がかかる人たちにとっては、非課税枠のある「暦年贈与」と比べ、相続税の節税効果も低く、使い勝手のよくない制度として、利用している人も決して多くありませんでした。
ところが、今回の改正でこの「相続時精算課税制度」に注目が集まっています。
理由は、暦年贈与と同様110万円の非課税枠ができたことです。しかも、年間110万円以下の贈与財産は無期限で相続税の計算対象にしなくてよい(贈与税の申告もしなくてよい。ただし、初回年に、相続時精算課税選択届出書を提出)ということになったのです。
暦年贈与制度のほうは、亡くなった日からさかのぼって7年以内の贈与はダメよと「改悪」になりましたが、こちらは逆に、「改良」です。
「どっちがおトクなのか」の考え方
では令和6年以降、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」どっちがおトクなのかをパターンごとに見ていきたいと思います。大前提として、もともと相続税がかからない人は、手間などを考えると暦年贈与で非課税枠を超えない贈与をするということさえ心がけていれば、損もトクもありません。以下は相続税がかかる人を前提に説明します。
パターン① 110万円以下の贈与の場合
仮に、毎年110万円の贈与を続けていた人が亡くなった場合、「暦年贈与」だと亡くなる前7年分の770万円が相続税の計算対象となりますが、「相続時精算課税制度」なら、贈与された財産は1円も相続税の計算対象となりません。つまり、非課税枠内での贈与であれば、「相続時精算課税制度」のほうが節税効果があるということになります。
パターン② 贈与税の非課税枠を超えて行う贈与
では、非課税枠を超えて贈与した場合はどうなるのか。これは、いくら贈与するのか、何年贈与するのかで、答えが変わってきますので、非課税枠を超えての贈与をするような資産がある人は、税理士に相談をすることをおすすめします。
パターン③ 孫など相続で財産をもらわない人への贈与
孫などで相続では財産をもらわない人には「暦年贈与」がおトクです。というのも、暦年贈与の7年以内の財産を相続税の対象にするというのは、相続で財産をもらう人だけの話。相続で財産をもらわない人は関係ありません。そんな人に「相続時精算課税制度」を使ってしまうと、相続で財産をもらわなくても年間110万円を超えた分が相続税の対象となってしまいます。しかも、相続人じゃない孫は相続税が2割増しです。ちなみに、相続時精算課税制度は18歳以上の子・孫に対する贈与にしか使えない制度なので、それ以外の人(配偶者や嫁婿・きょうだいなど)は「暦年贈与」一択です。
複雑になる生前贈与
一度、相続時精算課税制度で贈与を始めてしまうとその後、暦年贈与をしたいと思っても戻すことができません。
生前贈与を使って、相続税の節税をしようとお考えの場合は、税理士に相談することをおすすめします。
非課税の枠を超えて贈与したほうがいいのか、誰に贈与したら一番効果的なのか、など、相続税のことも見据えて計画することで、より効果的で間違いのない贈与ができます。
*本記事は「知らないと大損する!定年前後のお金の正解 改訂版」から、抜粋し新原稿を加えて編集したものです。