一方で、そのような場所は「なんとなく」あるがゆえに、記録として残されにくいという特徴があります。例えば、書店空間についての言説でも、新宿にある紀伊國屋書店や個人経営の趣がある古書店などは記録として残されやすいでしょう。そうした書店にフォーカスした本や記事は数多くあります。しかし、わざわざブックオフを取り立てて語るということはなかなかありませんし、ともするとその場所は語られないままになってしまうのではないでしょうか。

 しかし、語られない、ということはイコールその場所に価値がない、ということではありません。私はこの場所によく足を運んでいるということもあって、どうにかしてこの場所を語り、言葉として残すことができないかを考えるようになりました。あえて、この「なんとなく」ある場所を言葉にしてみたいのです。

 そして、その際に重要な考え方として私が提出したいのが、ブックオフにある「なんとなく性」です。

「なんとなく性」とは何でしょうか。「なんとなく」、つまり「目的がないこと、はっきりとした理由がない」ということ。ブックオフの棚には「明確な目的」があるわけではなく、「なんとなくそこに存在している商品」が多くあります。

 これを説明するためには、ブックオフの買い取りシステムを考える必要があります。ブックオフの買い取りシステムは「出し切り」と呼ばれていて、それは「買い取った商品は、必ずその日のうちに加工して棚に並べるという鉄の掟」です(「ブックオフ創業30周年記念!スペシャル座談会――8人の社員たちが語る、創業から未来まで」2020年5月14日「ブックオフをたちよみ!」)。