昨年6月に開始したランオフにより、FRBは保有証券を直近までで1.1兆ドルも減らす順調ぶりだ。ランオフは、FRBの有り余るほどの準備預金が「十分」な量に近づけば止めると決められている。そのタイミングは2025年半ばというのが米ニューヨーク連邦準備銀行の予測であり、今後の保有証券の減少は1.4兆ドルとなる見込みだ。このように予測値で削減の全体像を示し、予測可能性を高めると、保有資産の大幅な減少にも市場は対応しやすい。日本銀行も参考にすべきだ。

 ただし、課題もある。財政赤字に改善が見られなければ、国債の需給がさらに悪化し、ランオフへの批判が強まりかねない。円滑なランオフには、政府が財政再建に本気で向き合うことが必要だ。日本の場合、それに加えて市場機能の回復も必要となる。

 日銀は10月31日の金融政策決定会合で、YCC(長短金利操作)の再柔軟化を決めた。市場機能の回復を多少なりとも求め始めた格好だが、同時に大規模買い入れや機動的なオペも強調している。

 後者の政策を可能な限り控えれば、市場機能の回復を通じて放漫財政への警告が再び可能となる。また、国債需給の金利調整力も回復し、ランオフを円滑化する準備ができよう。さらに、バランスシートのよりいっそうの拡大も防げる。出口のコストは今の日銀の路線よりずっと小さくなるはずだ。

(キヤノングローバル戦略研究所 特別顧問 須田美矢子)