「メタ認知が上手にできますか?」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
「理性的な私」でいる方法
感情に振り回されるときがありませんか?
それは、目先で起こっている問題よりも、ずっと以前から体にしみついてきた考え方が影響しています。
その考え方によって、今の感情が引き起こされているのです。
今起こっている問題にとらわれすぎて、根本的な自分の問題の原因に「気づき」が起こっていないのが原因です。
どうすれば、いかなるときも「理性的な私」でいられるのでしょうか。
「メタ認知」をしよう
ここで大事な概念を一つ紹介しましょう。
一度、自分の思考や解釈の枠の外に出て、「なぜ自分はそんな考えを持つにいたっているのだろう?」ということを客観的に見る必要があります。
いわゆる「メタ認知」ですね。一般的にも聞くようになった言葉だと思います。
その練習を繰り返すことで、感情的になったとしても、
「いま、この言葉を言ったら関係がこじれるな」
という理性的な自分がブレーキを踏むようになります。
そうすると、次に同じような場面になった場合にはどうしたらよいか、という視点に立つことができます。
この一連の過程こそが「受容」へのプロセスであり、メンヘラな瞬間の克服なのです。
メタ認知を理解する「ある実験」
ここで質問です。
みなさんは、下のような実験を見たことはありませんか。
チンパンジーは檻に入れられ、檻の外にバナナと、檻から手の届く範囲に短い棒を、檻から手の届かない範囲に長い棒を置いて、どのようにバナナを取るかを観察するのです。
結果は、「短い棒を手に取り、長い棒をたぐり寄せて、それでバナナを取る」です。
この心理学的実験は有名ですが、その本質についてはあまり知られていません。
この実験は、チンパンジーがバナナを取る知能があるかどうかを試すだけではありません。
実際には「気づき」について知るための実験なのです。
実験では当初、チンパンジーは失敗を繰り返し、成功するまで失敗を繰り返して学習し、バナナを取ると考えられていました。
実際に何匹かのチンパンジーは、短い棒を使って届かない場所にあるバナナを引き寄せようとしましたが、失敗して檻の中で暴れるなど粗暴な行動をしました。
しかし、最終的にバナナを取ったのは失敗を繰り返したチンパンジーではなく、「それを見ていた隣のチンパンジー」でした。
周囲を見回したり他のチンパンジーが失敗を繰り返しているうちに、突然短い棒を使い、檻の外にある長い棒をたぐり寄せ、そして長い棒を使って目的のバナナを手に入れることに成功したのです。
私たち類人猿は、目の前の問題にとらわれすぎると、周囲にあるモノや他の解決方法があることに気づけなくなります。
そんなときには、一歩引いて自分の姿を見てみることで情報が増えて、問題を解決するために必要な道順に「気づく」ことができるのです。
周りを見て、自分と同じ状況の人を見るようにしましょう。そうすることで、メタ認知は鍛えられます。
目の前で起こっているツラいことをすぐに解決してしまおうとせず、一度立ち止まって考えるプロセスを取り入れましょう。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。