サイバーエージェント社長の藤田晋は、2026年の社長交代に向けて、後継者の育成と選抜に取り組んでいる。自らの手で巨大企業を創り上げた社長の地位や仕事を引き継ぐには、どんな課題があり、何が必要なのか。藤田への単独インタビューで、その実像に迫った。全5回連載の第3回。(名古屋外国語大学教授 小野展克)
社長の頭の中は社員にとって「ブラックボックス」
「藤田社長が経験や勘でやってきた仕事は、言語化しないと引き継げませんよ」
藤田は、元リクルート副社長で社外取締役の中村恒一に、こう指摘されて「はっとした」という。
藤田は、中村からの指摘を受けて「引き継ぎ書」の作成に取り組んだ。
「自分の中で、なぜそういった判断をするのかは当然、理解していますし、自分の中で、ちゃんとサイバーエージェントの経営としてつじつまが合っているわけです。ただ、長く経営する中で、大きな経営判断をしたときでもあまり社内にも説明せずに『こうしよう』と僕が言うと、みな同じ方向に向いてくれるようになっていました。社内では僕の説明責任が発生しないのです。特に僕のような創業社長は、同じような状況に陥るのではないでしょうか。説明しなくても、パンパン決まってくので、スピードが速くていいわけです。しかし、それでは社長の仕事は引き継げません」
カリスマ経営者の一声で、ビジネスが進めば、意思決定のスピードを上げるメリットがある。しかし、社長がなぜ、そう考えたのか、戦略的な意図は何なのか、社長の頭の中が社員から見て「ブラックボックス」になったままでは、社長の仕事を引き継ぐことはできない。
藤田は言う。
「なぜ、そういう意思決定をするのかを言語化する狙いで作ったのが、引き継ぎ書なのです」
藤田は、この「引き継ぎ書」そのものを研修プログラムの題材にした。
「なぜ、そうした意思決定をしようと考えたのか、一つ一つ言語化して、引き継ぎ書の内容を説明すると、みなすごく腹落ちしていました。断片的に見聞きするだけだと、完全には僕の考えは、社員たちに伝わりきらない。言葉にしないと伝わらないことが本当によく分かりました」