サイバーエージェント社長の藤田晋は社長交代の準備を進める中、藤田がいなくても成長する組織の仕組み化に取り組んでいる。その一方で、藤田の肝いりでスタートしたインターネットテレビのABEMAは、2022年に開かれたサッカーワールドカップの全試合放送で存在感を示したものの、いまだ赤字から脱却できていない。藤田は、社長として残された3年間で、ABEMAをどう軌道に乗せようしているのか。その秘策を藤田に聞いた。全5回連載の最終回。(名古屋外国語大学教授 小野展克)

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「ABEMAの収益化は
やり切るところまでやる」

元SMAP、ひろゆきが話題でもABEMAは赤字…サイバー藤田社長が明かす「黒字化の秘策」とは?単独インタビューに応じた藤田晋社長 撮影:笛木雄樹

「ABEMAは、そもそも10年がかりでやると言っていた事業ですが、やはり10年はかかるものだな、と感じています。ただ、メディアビジネスは一度根付くと、ちゃんと人々の習慣になっていきます。そもそも、ABEMAの放送で成り立っている業界や競技があるわけで、うまくいかなくなったからといって簡単にやめるわけにはいきません。なんとしても収益化してなくてはならず、その責任感も次の社長に引き継がないといけません。ある程度、メドがつくまでは、ABEMAの経営をやろうと思っています」

 ABEMAなどのメディア事業の売上高は2018年9月期の314億円から23年9月期には1411億円まで急拡大している。一方、利益の面では、23年9月期決算で、115億円の営業損失となった。ただ、23年9月期は、ワールドカップ向けの大型投資があった。そうした重荷があっても前年比で8億円も赤字は縮小した。20年9月期の182億円の営業損失と比べると赤字の縮小は鮮明で、ようやく黒字化への道筋が見え始めた。

 藤田には、赤字続きのAmebaブログのビジネスを粘り強く継続して黒字転換した実績がある。

 システムトラブルが続き、利用者が思うように伸びないAmeba事業は市場からの撤退圧力にさらされ、社内からもビジネスの継続に疑問符が付いたことすらもあったという。

 藤田の著書『起業家』(幻冬舎文庫)によると藤田は「これでダメだったら、おれも責任をとって会社辞めるからさ」と社内で宣言、Ameba事業の担当幹部を総入れ替えした。さらに、社長室をAmeba事業本部のあるビルに移した。社長のクビをかけて、事業の立て直しに臨んだのだ。

 芸能人のブログの強化など藤田が陣頭指揮を執ることで、黒字転換を果たし、サイバーエージェントの屋台骨を支えるビジネスへと成長した。

「(株主からのABEMAへの撤退圧力は)全くないです。Amebaブログの時に、そう言われながら、結果を出し、その経緯を本にまでしました。周囲からいろいろと言われながらも結果を出してきたことから、その信用が積み重なって今に至るのだと思います。ただ社長を交代するとなると、新社長はいろいろ言われるでしょうからABEMAの収益化は、やり切るところまで、やらないといけません」