オリックス銀行は2023年2月、勘定系システムをクラウド化した。システム更改は2年10カ月を要し、総工数約1,000人月、ピーク時メンバー110名に上るプロジェクトとなった。今回のプロジェクトでは、既存の勘定系システムが抱えていた課題の解決とともに、今後の経営戦略を支えていくための基盤整備にも取り組んだ。経営戦略と密接に連携する、オリックス銀行のIT戦略を報告する。
勘定系システムが抱えていた三つの課題
オリックス銀行は、主力商品として投資用不動産ローンなどを提供し、店舗網やATMを保有せず、キャッシュカードや通帳も発行していない。メガバンクや地方銀行、インターネット専業銀行などとも異なり、商品を厳選して特定分野で強みを発揮する事業戦略だ。
2021~25年度の中期的な経営戦略では、重点テーマの一つに、「IT・デジタライゼーション」を掲げている。経営戦略とIT戦略の連携向上を図るため、CX向上(顧客体験の向上)とEX向上(社員の働きやすさや業務効率の向上)を両輪とする、ITガバナンスの枠組みを整備した。その枠組みに従い、経営戦略に並行して取り組みを進めているIT中期戦略では、(1)クラウドファースト、(2)ITを通じたCX向上、(3)ITを通じたEX向上、(4)システム開発基盤・手法変革、(5)システム品質と開発力向上、(6)人材育成と体制整備の六つの戦略を明確にしている。
当社の勘定系システムは従前、富士通の金融機関向けソリューションをベースにカスタマイズ開発を行い、03年11月から稼働していた。開発当時、システムの維持・保守費用は高額化傾向にあったため、「メインフレームからの脱却」「稼働中の複数システムの統合」を実現するシステムの全面刷新を行い、年間のシステム維持・保守費用を1~2割削減した。その後は、保守契約期限の到来に合わせてインフラの更改を実施し、オンプレミスでの運用を継続してきた。19年に保守契約を延長したが、22年度を保守の限界と判断し、システムの見直しの検討に着手した。
19年当時、当社は勘定系システムに関して三つの課題を認識していた。1点目は、保守契約期限到来のたびに、高額な更改費用と社員の相応の対応負荷が生じること。2点目は、外部サービスや社内の他システムとの機能連携が拡大するなか、割高な開発費用や対応期間が長期化していたこと。3点目は、汎用的ではないOS利用などによる保守性の低さなど、将来にわたり長期利用していくために、システム構成面の最新化が必要であったことだ。そのためシステムを見直すに当たり、これらの課題解決も含めて計画策定を進めた。