直近の23年10月の訪日外客数は251.7万人と、コロナ禍前の19年同月の水準をついに上回った。また、同7~9月期の1人当たり消費額は21.1万円と、19年同期を29.4%上回っている。仮に今後、中国からの訪日外客数が19年と同水準にまで回復すれば、8兆円の目標に限りなく肉薄することが期待される。

 もっとも、8兆円の目標達成に向けた課題は残されている。

 第一は、先述した中国からの訪日外客数の回復だ。国際便の本数と相まって他国に遅れている分、挽回の余地がある。

 第二に、需要回復に応じた供給の回復が求められる。とりわけ宿泊・飲食産業における人手不足は深刻化しており、待遇改善と効率化の両面から人材確保が急務だ。

 第三に、訪日外客1人当たり消費額のさらなる引き上げが必要だ。というのも、訪日外客1人当たりの宿泊日数は23年7~9月期に11.2泊と、19年同期の10.4泊から伸長している。すなわち、1人当たりで見れば+29.4%でも、1泊当たりに直すと+20.2%の増加にとどまるのだ。この4年間で進んだ円安や諸外国の購買力拡大を鑑みれば、消費額20%増では物足りない。ドル円で、4年前と比べ約35%も円安が進んだことを考えれば実感が湧くだろう。

「おもてなし」は日本の美徳だが、相応の対価を求めることを恐れてはならない。より高単価なサービスに軸足を移す余地は大きいからだ。「賃金と物価の好循環」の成否は、宿泊産業にも懸かっている。

(みずほ証券 エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)