ライフネット生命保険社長の出口治明さんをゲストに迎えた、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』著者の山口揚平さんによる対談は、本の内容からさまざまな方向へ広がっていった。対談後半は、出口さんのフィールドである保険について、山口さんが持論を展開するところから始まった。
保険の仕組みを使った社会問題解決法
山口揚平(以下、山口) 僕は、保険の仕組みを使った社会的課題の解決方法を3つ考えていて、ぜひ出口さんに聞いていただきたいと思っていました。
ひとつ目は「内定保険」というプランです。これは、就職活動中の学生が積み立てをしておいて、内定が取れなかった場合は保険金として海外留学の費用を受け取るという仕組みです。学生にとっては海外留学で見聞を広めるいい機会になりますし、留学の斡旋業者にとっても、大きなメリットがあるのではないでしょうか。
出口治明(以下、出口) それは損害保険ですね。発想は非常に面白いです。
山口 ふたつ目は、対談前編で出た高齢者の話題に関連します。親が自分の子どもに対し、孫が生まれたらあらかじめ決めておいた金額を教育資金として贈与することをコミットするのです。現実には、孫が生まれたらお金を出す親は多いでしょう。しかし、それが言語化されていないので、子どもは当てにできません。若者が子どもを産まない最大の理由は、先行きが見えない不安です。子どもが産まれたら1000万円が信託される仕組みを最初に作っておけば、赤ちゃんを産みやすくなるのではないでしょうか。
出口 面白いですね。子どもを産み、育てることは、人間社会のサステナビリティーの基本です。
ただお話を聞くと、保険ではなく、フランスが取り組んでいる「シラク3原則」のような税金の世界の気がしますね。シラク3原則は「子どもを持つことによって新たな経済的負担が生じないようにする」「無料の保育所を完備する」「3年の育児休暇から職場復帰するときは、その3年間ずっと勤務していたものとみなし、休職前のステイタスで職場に戻ることができる」というものです。
3つ目が最も大事なところで、育休を取る女性が最も嫌がるのは、休んでいる間に人事考課の順位が下がってしまうことです。それまで頑張ってきたことがふいになるから、女性は子どもを産まなくなった。この施策はフランスですでに実施されていて、それほど税金もかかっていません。それでも、10年も経たないうちに出生率が0.5ポイントほど上がりました。こういう事実があるので、子育ては国の責任という面も強いのではないかと思います。