すると大きな変化が押し寄せてきたときに、どうなるか。社員の人たちが頭では変わらなくてはいけないと分かっていても、目の前の現実では古いやり方で日々業務が行われていて、その内容で評価も給与も決まってしまいます。この差をどうしていくかというのは、非常に大きなテーマとなります。

経営者の問題意識がかなり強くても、現場には分かっている人と分かっていない人がまだらにいる。分かっている人も頭では分かっていても、実際に何をどうすればいいのか分からない。そういう状況の会社は多いように見受けます。

この「頭では分かっている」という状態を、本当に我が事として、それぞれの現場で「私たちの部門ではこれをやらなければ」「私たちの課ではもう、これはやめよう」といった議論に結びつけなければならないわけです。トップが言うことはどうしても全社向けで抽象度が高くなりがちですから、そこと現場とを接続することはすごく大切です。

そして、「1on1でなければできないこと」というのは、この「接続」そのものだと思うのです。

あらためて1on1とは何か(何ではないか)

あらためて1on1とは何かを考える前に、1on1とは「何ではないか」を考えてみましょう。1on1とは、これまでの業務のやり方に沿った進捗(しんちょく)管理の新しいやり方、「ではありません」。

経営トップからは変革のための指針のつもりで「これをやってください」というメッセージを発しているのに、現場への伝言ゲームの中でいつの間にか、あるいは伝達のための会議を繰り返すうちに、ただの進捗管理ミーティングに変容してしまったという話はよく聞きます。

では、1on1とは何なのか。まず、1on1は、管理する側のためではなく社員やメンバーのための時間です。さらに1on1とは、新しい事業の方向性に向かって、社員の内面の「思い込み」のようなものを刷新していくプロセスです。

1on1の手法として「上司はとにかく聴いてあげてください」とよく紹介されますが、これはなぜなのでしょうか。

世の中が変化しているのに、会社の仕組みが変わっていないとすれば、経営者はそのギャップをスピーディーに埋めたいと考えるはずです。その「変わっている世の中」に最も接点が多いのは、現場の人たちです。顧客の意見に触れ、競合の状況をずっと見てきて、あるいは消費者としての立場でもあります。ですから、この人たちがいいと思うことを取り入れることは大切です。

本来であればトップの意思と社員の思いは、社員のための時間であり、社員の話を聴く場である1on1で接続するはずです。それなのに「これまでのやり方の守護神」である管理職が、これまでのやり方を是として「そういう情報を取りたいんじゃない」などと業務の進捗管理を1on1の場で行ってしまうと、元も子もないのでは、と思うのです。