おそらく老舗企業や成熟企業では、現場の変化を肌で感じている人の方がいい提案のタネを持っているのではないでしょうか。上司の経験は、それをいかに社内で通すか、あるいは会社にとってもうかるような提案に仕上げていくか、といった点で生きるはずです。1on1は原則として聴く時間にして、最後の5分ほどで少しだけ助言をする、といったやり方を目指せば、本来の1on1の意味と実際にできることが結合するのではないかと思います。

エール取締役 篠田真貴子氏
 

1on1がうまくいかないのは「聴かれてよかった」経験が少ないから

「これから1on1を始める」という上司の方々が、そもそも「話を聴く」ことが全く良いことに思えないということはよくあります。聴くことに関心がそもそもわかないし、反感を覚えるという人もいます。私もそういうタイプのひとりでした。

その理由はずばり、聴くことについて教わったことがないからです。コミュニケーションと言えば、いかにうまく話すか、伝えるか。これをずっとトレーニングしてきています。特に現在、管理職の世代の皆さんは、まさに「背中を見て盗め」などと厳しく言われ、歯を食いしばってがんばってきた結果、管理職にある人たちです。その成功体験と逆のことをやれと言われても、「何の意味があるのか」と戸惑うことと思います。

私自身も今振り返ると、聴くということに関してさまざまな誤解をしてきました。聴くことには何となく「自分が従う側」というイメージがつきまといます。これまで上司の言うことを聴いてきた身からすると、「部下の言うことを聴く」ということが、部下の言いなりになるかのようにとらえられるからです。

この世代の人たちは面談だけでなく、商談でも会議でも、効率よく話を運ぶために話の運び方を設計して資料を用意し、計画通りに運べばその打ち合わせが成功だと考えてきたはずです。ですから、こちらが聴いてしまったら「コントロールが向こうへ行ってしまうからダメだ」と感じるのです。

そもそも聴くことがビジネスマンとして良いことだという経験をしておらず、会議でも「発言しなければ意味がない」と言われ続けてきています。だから「聴く」イコール「発言しない」、イコール「意味がない」、つまり無能だというイメージがあるのだと思います。そこで1on1は聴くための場と言われても、「上司たるものが、聴くことで面談が成立するものなのか」と戸惑うのでしょう。「普段の会議でも、自分が8割ぐらいしゃべっているのに、部下だって面食らうだろう」という考えになるのは想像に難くありません。