ベッドの上で重なる手写真はイメージです Photo:PIXTA

病気や加齢によって弱り、食べ物が食べられなくなったとき、胃ろうを選択すべきか否か悩む人は少なくないはずだ。胃ろうをしなければ長くは生きられない。本人にとって、家族にとって何が一番ベストなのか? 在宅緩和ケア医として活躍する医師が出会った、「平穏死」を選択した男性の最期とは。本稿は、高橋浩一『在宅緩和ケア医が出会った「最期は自宅で」30の逝き方』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「胃ろう」を選択せず
自宅へ連れて帰ったYさん家族

 Yさんは92歳。

 数年前から認知症の症状がひどくなり、暴れたりするようになったので、老人施設に入所していました。

 ある時、食べ物を飲み込むことができなくなってきて、入院。

 点滴をすると、いったん元気になるのですが、食べられるようになるわけではありません。

 病院の担当医からは、経鼻胃チューブ、胃ろう、高カロリー点滴、のいずれかを選択するよう、ご家族に告げられました。

 認知症のため暴れることもあり、チューブや点滴は引き抜く可能性があるので、実際には胃ろうをするかどうか、という問題でした。

 でも、Yさんたちは、そうしませんでした。

 Yさんたちは、ご家族や知人など、病院や老人ホームで「胃ろうで寝たきり」という人を、これまで何人も見てきていました。

 お見舞いからの帰り道に、「ああいうふうには、なりたくないね」と、何度も話し合ってきたことがあったのだそうです。

 そこでご家族は、胃ろうはせずに、施設ではなく自宅に連れて帰ることを決断されました。

 胃ろうをしないのであれば、長くは生きられないことは承知の上で、自宅ですごそう、自宅で看取ろう、と決められたのです。

 本人の思いを尊重することにしたのです。