既存の組織ができあがっている企業において、1on1で苦労するポイント、1on1をやってもうまくいかない基本構造は、旧来のやり方を管理職が半ば無意識に再生産してしまうことにあります。彼ら彼女らは、今まで「効率が良い」とされてきたやり方を無意識にできてしまうほど訓練を積んだ人たちだからこそ、管理職に起用されているわけです。しかし無意識に良かれと思って指導することが全部、変化する環境とはズレてしまう。部下の方にとっては「この時間、何だか意味がないよなあ」という1on1になってしまいます。

上司が培ってきた経験に基づく「良かれと思って」という話は、この変化し続ける局面では、むしろ邪魔になっている可能性があります。だからこそ「聴く」ということがとても大切になってきます。

「聴く上司」は1on1で何をすればいいのか

上司の方の社会人としての経験や、組織を動かす知見が全て無駄だというつもりはありません。状況の変化とこれまでのやり方がフィットしないという点だけが問題なのです。では「聴く上司」は1on1で何をすればいいのでしょうか。

まず、自分の経験に基づいて「こういうやり方が良いよ」と指導することから始めてみるのはいかがでしょう。聴き手となり、現場の方が直面する課題や悩みをとにかく聴くこと。アドバイスは今までの10分の1ぐらいの分量になるよう意識します。仮に面談時間が30分だとすれば、話すのは最後の5分と決めて、残りの25分は「どうしたの」と聴くことに専念します。

「顧客からリクエストを受けたけれども難しいと思っている」と言われたら、「どうするのがいいと思う?」と聴いてみる。質問も相手を「詰める」かたちになることがありますので、そんなときは「確かに難しいよね」と共感を表してみてください。自分の中に答えがあっても、それは言わずに、とにかく基本的には黙って、聴く姿勢を示し続けてみましょう。

相手も、何も考えていないわけではないのです。しゃべることで、その考えがまとまって出てくるはずです。よく聴いてみれば、意外といいことを考えていると思います。

エールでもクライアント向けに「聴くこと」をトレーニングするプログラムを提供しています。これを実際に使った老舗企業の方々は、今までは若い人から相談や提案があると、だいたい途中で遮って「わかったわかった、じゃあこうすればいい」とアドバイスに入るのが普通のコミュニケーションだった、といいます。それがトレーニングを経て、口を挟まずに最後まで聴くようになったところ、「若い人も意外と考えている」「意外といい案が出てくる」と驚くのだそうです。