駒崎:フローレンスが輩出したというとおこがましい気もしますが、フローレンス出身の社会起業家の例としては、大阪で病児・病後保育を営む認定NPO法人ノーべル代表・高亜希さんや、政策アンケートの「issues」を運営するポリテックのスタートアップ・issues代表の廣田達宣さん。それから、少人数で個別最適化された教育を提供するマイクロスクール、認定NPO法人東京コミュニティスクールの新理事長・堀江由香里さんでしょうか。

彼らに対してフローレンスができたことは、そう多くないと思います。それは、一人ひとりに志があったということに尽きるからです。例えば、issuesの廣田さん。僕は“ひろたん”と呼んでいるのですが、彼は社会人インターンとしてフローレンスに来て、フローレンスの事業の起こし方や運営方法を学んで、自らも社会起業家になりました。フローレンスに来る時点で、本人に起業する強い決意があったわけです。

一方で、フローレンスの実務を通じて学ぶことはあると思います。起業家教育全般に通じることですが、聞いているだけの講義では体感できないけれど、実際に自分がビジネスの現場に入って手を動かすことで、刻み込まれていくものがある。そう考えると、志を持った人が、フローレンスで実務をやってみることが、ラーニングの機会だったのかもしれません。

実務というのは、フローレンスで一緒に働く人たちとの関わりも含みます。ビジネスセクターの組織と少し違うのは、働き手にバリエーションがあるということでしょうか。ボランティアの人をはじめとして、賃金労働者だけではありません。さらに、当たり前ですが一人ひとり感情を持った違う人間で、それぞれにモチベーションがある。彼ら彼女らの感情や人格を理解しながら、その人に応じたコミュニケーションで巻き込んでいくことなど、起業に当たって重要になるさまざまな要素が実務に詰まっているのです。

情熱なくして、社会起業は難しい

馬田:社会起業道場と政策起業道場についてもお聞かせください。

駒崎:社会起業道場は、すでに社会課題に対して起業をしている人向けの、簡単に言ってしまえば、メンタリングプログラムです。例えば、課題に対してどんな取り組みをしているかを10分間でプレゼンしてもらい、その後10分間フィードバックを受けるという20分間が、5名分あるというイメージです。

徒弟制度に近いかもしれませんが、1対1で「課題の捉え方は本当にそれでいいのか」と問い、彼らの認知を拡張・深堀りしていくことで、課題の捉え方の訓練をしていきます。戦術論は自身で考えればいいことですが、課題設定が適切かどうかは非常に大事なので、そこを第三者視点でフォーカスして、捉え直しをしてもらいます。