馬田:志があってこれから何かを始めるという人には、知識というよりは実務を通した経験を、実際に起業している人には、メンタリングを通じてメタ認知を働かせることを促しているのですね。ちなみに、実務経験やメンタリング以前の大前提として、必要だと感じる知識やスキルはありますか。
駒崎:そうですね。社会起業家にしても政策起業家にしても、必要な基礎知識はあると思います。例えば社会起業であれば、事業をつくる際にビジネスの知識を使います。「ポジショニング」「事業ドメイン」「選択と集中」といったフレームワークが使いこなせれば便利です。ただし、これらは本を読めば学べるものなので、そうなると本を読みましょうということになる。
一方で、本を読むときに大事になるのは「本を読んで学んで、自分の能力を高めたい」「課題を解決するために、何でも自分の知識にしたい」という情熱です。あるいは、課題意識かもしれないし、怒りかもしれない。いずれにしても、自分で自分をドライブする強い動機がなければ、勉強は続かないし、当然社会起業は続きません。
馬田:途中で諦めてしまう人も多いですか。
駒崎:諦める人もいるし、心が折れてしまう人もいます。起業というもの自体が簡単ではないということはありますが、社会起業というものは、いわゆるビジネス起業家と違って、儲かるわけではない。さらには賞賛を得て目立つことも少ない。そういった中で、「それでもどうしてもやるんだ」「自分はやりたいんだ」と思えるものがないと、厳しいです。
そういう意味では、知識や技術の前に、そういう動機があるのかは問います。ソーシャルセクターにいるとよく投げかけられる「原体験はなんですか?」という問いがまさにそれで、原体験があると強く、続けられる傾向はあると思います。
ビジネスの人は、ソーシャルの人より優れていると思いがち
馬田:先ほど、情熱がある上でのビジネスの基礎知識の話が出てきましたが、逆に、ビジネスど真ん中にいる人たちが社会起業家としてやっていくときに、アンラーンしなければいけないことは、どの辺りにありますか。
駒崎:僕は典型的な、ビジネスセクターから入って社会起業家になっている人間なので、後から福祉や保育といったテーマを学びました。ビジネスが先だった実体験を元にお話しすると、ビジネスの万能感のようなものを捨てる必要があると思います。
馬田:どういうことでしょうか。
駒崎:ビジネスセクターの人たちは、ソーシャルセクターの人たちよりも自分たちは優れていると思いがちです。よく話題になるのは「NPOにお金がないのは、マーケティングを知らないから。僕たちが教えてあげましょうか」といったコミュニケーションです。もちろん、直接こういう言葉は使いません。でも「プロボノに興味ありませんか」という投げかけからはまさに、「知らないだろうから欠けている部分を埋めてあげるよ」という意図が透けて見えます。