2023年のスタートアップシーンや投資環境はどのように変化し、どのような領域やプロダクトの盛り上がりが予想されるでしょうか。
「不況期にこそ、偉大なスタートアップは生まれる」という、統計的に検証されたのかどうかわからない、つまり、本当か嘘かわからない格言を時々耳にします。これがもし真実だとすれば、2023年は新しい事業の仕込み時として、最高のタイミングということになります。では、不況が、なぜスタートアップにとって良い環境となり得るのか。思いつく限りに列挙してみます。
・採用において、企業から見て買い手市場となり、優秀な人を安く採用しやすくなる
・新たな競合が生まれる可能性、新規参入の脅威が減る
・既存産業の新陳代謝が起きたり、新しいコスト削減ニーズが生まれたりする
・仕入元や提携先と、有利な条件で契約しやすくなる
・創業者はより大きな市場を目指し、資本市場へアピールせざるを得ない
・マーケティングやセールスによって成長を「買う」難易度があがり、財務体質の健全性が高まる
・顧客企業、ターゲット消費者のお財布のひもが固くなり、プロダクトをより磨き上げる必要が出てくる
・M&Aをする機会が増える
こう並べてみると、不況もそう悪くないように思えてきます。大事なのはスタートアップ経営のパラダイムが大きく変わったという事実で、そういう認識をいち早く持つことができた企業の生存確率が高まるということなのでしょう。
2023年に注目する・盛り上がると考える領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。
・クリプト/Web3
現状、ブロックチェーン技術に主導される一連のイノベーションの果実を享受しているのは、世界人口に対して数パーセントでしょう。今後も、長期的にはバブルとシュリンクを繰り返し、成長していくと考えています。2022年に見られた多くのドラマティックな破綻劇も、ロングタームで見れば誤差の範囲であり、必要な新陳代謝に過ぎないという長期的な視点の論調に私も同意しています。2023年中に盛り上がるかどうかという意味では、マーケットに供給されるリスクマネーの総量次第、つまり先進国の中央銀行の政策によって影響される要素が大きく、(残念ながら)株式市場の上下とほぼ連動するでしょう。
・エンタープライズSaaS
国内法人向けソフトウェア市場10兆円のうち、SaaSのシェアは10%未満であることはよく知られているファクトです。各産業バーチカルにもホリゾンタルにも、クラウドサービスの浸透が十分ではないことは自明であり、短期でも長期でも市場拡大の確度が非常に高い領域の一つと捉えています。また、その事業モデルの特性、営業エコノミクスや財務計画についての予測性と再現性の高さも魅力的です。不確実性の高まる不況期においては、経営の見通しの立てやすさというファクターの価値は相対的に高まると考えています。