ところが複雑で発想の転換が必要なタイプの課題には、外発的動機付けは効力を発揮しません。それどころか、邪魔になることさえあるということが、何十年にもわたる研究や実験の結果わかっているといいます。

スタートアップでは、モチベーション向上のためによくストックオプションによる報酬制度が取り入れられています。しかし、この動画を見る限り、まだ試行錯誤を繰り返さなければならないスタートアップには、こうした報酬が合わない可能性があるということになります。

では、より複雑な状況の中で、今までと違う発想であれこれ試すことが必要なときに、モチベーションを促すのは何でしょうか。それは金銭的報酬や懲罰のような外発的動機付けではなく、「内発的動機付け」だとダニエルは説明します。

外発的動機付けと内発的動機付けでは、何が違うのでしょうか。また、どうすれば内発的動機は高められるのでしょうか。

自分らしいやり方を見つけて外発的動機を内発的動機へ変える

人は「これをやればボーナスが上がる」「これをやれば給料が上がる」、あるいは「これをやらなかったら怒られる」という外発的動機付けだけで仕事をしていると、外発的な要因がなくなった途端に仕事が止まります。「ボーナスをくれない」「怒られない」となったらもう、それ以上は進まなくなるのです。

ところが、自分の内側からやりたいという内発的動機から仕事をしているときには、報酬がなくても、怒られなくても仕事を自ら進めるようになります。

文献を調べてみると、外発的動機と内発的動機とは二項対立するものではなく、グラデーション状だということがわかります。外発的動機と内発的動機の間には3段階ぐらいの段階があります。

下図は、ある講演のときの私の準備の流れと、外発的動機・内発的動機の持ち方の状況を表したものです。

動機と自己決定の連続性
 

「講演をこの日に実施する」というのは外発的動機付けに過ぎず、やらなければ怒られるので間に合うときから準備を始めることになります。この時点では「私らしいから」「夢中になっているから」といった内発的動機は全くありません。

講演の準備を進めていくと、テーマが決まります。企画者と話し合って決めるので私にも納得感はありますが、まだ企画者の意図に合わせている部分があるので、この時点でもまだまだ外側にある動機と言えるでしょう。

しかし資料を実際に作っていくと、だんだん面白くなってきて、そのうちに頼まれてもいないのに書籍や学術論文を詳しく調べるようになります。この時点までくると、自分でもかなり内発的に講演に関わろうとしています。最終的には、週末に4時間かけて講演には直接関係のない論文を調べて夢中になり、非常に楽しい時間を過ごすことになりました。