──逆に「考えていたけれども(10年で)できなかった」ということはありますか。

グローバルで出資はしていますが、日米にしか(サービスを)展開できていませんし、米国はまだ小さい。ポテンシャルと比べて「もっとグローバルでできていたはず」というのはあります。

でも大企業、例えばリクルートは「HR(Human Resources)」とずっと言ってきて、インターネットができた今は(テックという言葉がついて)「HRテック」といっています。これは江副さん(リクルート創業者の故・江副浩正氏)が始めに考えた時には想像もしなかったことでしょう。けれども「人」を基軸にして何かしようとやってきた結果、HRテックの会社になりました。ソニーも「エンジニアがもっと愉快に働ける」といったことが脈々と引き継がれた結果、今のかたちになっています。ですがいずれにしても、創業者は別にそこまでたどり着くとは予想していなかったと思います。

この10年、最初はスタートアップとしてワーッと走り抜けてきました。ですがその後半は、だんだん「会社がこれから何をどうやっていくのか」を考えるようになったということは、あるかもしれません。

──山田さんはウノウ(編注:メルカリ以前に創業したソーシャルゲーム開発会社。2010年に米Zyngaへ売却)のキャリアもあるので、いわゆる“ゼロイチ”のスタートアップの方とは考え方も違うとは思いますが、前回と今回の起業に違いはありますか。

メルカリでは、とにかく世界で使われるサービスを作りたいという思いがすごく強かった。(ウノウでは)ちょっと難しいなと思ったからこそ、やめて売却もしたし、(メルカリを)作るときも「特大ホームランになるか、三振になるか」みたいなことを何回も言っていました。成功は難しいかもしれないけれども、可能性がすごくあることをやろうと考えていました。

最初は本当に必死に人を採って、なんとかチームを作ってやってきましたが、会社にミッションやバリューが明文化されてくると、ある程度、自分と会社という存在が別々のものになっていきます。僕に共感しているというよりは、会社が目指すものがあって、それにみんなが共感して入ってきてくれる。僕が「これをやって」「あれをやって」というのではなく、自然に目指す方に向かってくれている感じになっています。

もう1つ、会社が大きくなってきて「現金出品」の問題が出てきたときのことです(編集注:2017年、メルカリ上に現金が出品された騒動があった)。自分ではスタートアップのつもりだったんですが、世の中から見ると「巨大プラットフォームなのに何をやってるんだ」と見られているんだなと実感しました。そこで会社としてどうあるべきなのかをよく考えて、世の中に受け入れられ、社会の公器としてその一部にならないと、これ以上大きくならないなと思いました。