管理業務の削減はわかりやすい。紙の帳票がデジタル化されることで、画面を数クリックすれば承認作業が終わる。複数の管理者が存在する場合でも、自動で承認依頼メールが飛ぶので無駄がない。中には「1日2時間の確認作業が5分程度になった」という事例も生まれている。
また、写真や数値といったデータを入力していくと、レポートが自動で作成される機能も備える。諸岡氏によると「レポートの内容は各社によって全然違うもので、それぞれの現場に秘伝のExcelがある」が、あらかじめカミナシにその雛形を取り込んでおくことで、各社の形式に合わせたレポートが“勝手に”出来上がる仕組みだ。
食品工場向けのバーティカルSaaSから、30業種で使われるホリゾンタルSaaSへ
もともとカミナシは食品工場の課題を解決する“業界特化型のSaaS”として2018年にスタートしている。
背景にあったのは諸岡氏の原体験だ。諸岡氏の父親は空港関連業務や食品製造、ビル清掃などを請け負うワールドエンタープライズの経営者。諸岡氏自身も起業前には同社で勤務し、実際に食品製造工場など現場の業務を経験した。
“従業員の97%”がノンデスクワーカーという環境において、仕事のメインツールは紙とペン。非効率な業務も多く新卒で入社した若手もどんどん退職してしまう状況で、会社にとっても大きな痛手になっていた。
テクノロジーを活用してノンデスクワーカーの働く環境を変えたい──。そのような思いが原点となり、諸岡氏は後にカミナシのアイデアに行き着くことになる。
2018年に前身となる食品工場向けのSaaSをローンチするも、この業界だけに特化していては市場規模の観点から目指しているような事業規模には成長できない。そう考えて、2020年にはさまざまな業界のノンデスクワーカーの悩みを解決する“現場向けのDXサービス”へとピボット。新たなスタートを切った。
「食品工場で発生しているような課題は、他の業界でも起こっているのではないか。そんな仮説もありピボットをしました」と諸岡氏は当時を振り返る。その仮説は的中し、カミナシの累計導入社数は300社を突破。食品工場を筆頭に飲食チェーン、ホテル、交通、警備業、製薬メーカーなど業種は30を超えた。
特にこの1年では社内のセールスやサポート体制の強化が進み、エンタープライズの顧客が増加している。前身となるサービスを含めると、現場向けのSaaSを提供し始めてから約5年。市場や現場側の変化も大きい。
2018年当時は、諸岡氏が商談をした企業の約半数は「現場ではスマホの利用がNG」で「クラウドサービスの導入が難しくオンプレのみ」という条件だった。先方から問い合わせがあった場合でも、この条件に合致せず商談が即終了するようなことも珍しいことではなかったという。