「単一プロダクトで、座布団積み上げ型モデルのSaaSが評価されづらくなっている。マルチプロダクト化に早期から取り組む、もしくは(単一プロダクトであれば)本格的に海外に出ていくことが必要とされるフェーズに変わったのだと感じます」(岩澤氏)

単一SaaSの市場規模の参考。
単一SaaSの市場規模の参考数値。連続的な成長を目指す上では複数プロダクト展開や近接領域へのサービス拡張、海外展開などが求められる

SaaSの産業化へ、日本固有の課題にアプローチする事業者に期待

「SaaSバブルの終焉と、そこからの再起」──。 岩澤氏は2022年のSaaS業界をそのように振り返る。

「近年はSaaSバブルとも言える状況で、各社のビジネスの本質的な価値が見えにくくなっていた部分があると思うんです。それがバーンマルチプルを代表とするように、成長の質や利益の厚み、健全な資本効率などが改めて重要視されるようになった。ある意味経営の原点に回帰した1年であり、そのことは業界にとっても価値があることだと考えています」

「多くの場合、新しい産業ができ上がっていく過程では、一度熱狂が起こった後にその流れが落ち着く段階があり、その中で生き残ったプレーヤーたちが産業を作っていく。日本のSaaS市場もその転換点となる局面にさしかかっているのではないかと思うんです」(岩澤氏)

この4〜5年でSaaSプロダクトが少しずつ普及し、IT企業だけでなく大企業や中小企業などにも浸透し始めている。SaaS経営のノウハウや事例など「ビジネスモデルの型」ができ始め、事業者の視点でもSaaSビジネスに挑戦しやすい土壌が整ってきた。

「SaaSのビジネスモデルの型化が進んだのと同時に、(SaaSのユーザーが)アーリーアダプターからマジョリティー層へと拡大した数年間だったと思います。徐々にSaaSが産業インフラに向かって前進している中で、今後は『SaaSがどの領域にひもづき、社会課題を解決するソリューションとして爆発的に広がっていくのか』に注目をしています」(岩澤氏)

岩澤氏がポイントに挙げるのが「日本の固有の課題に対してアプローチをするSaaS」の台頭だ。

「少子高齢化に伴う日本の労働人口の減少は、世界最速で進んでいます。もはや、海外のケーススタディは(日本に)追いつかなくなっていて、海外で先行するSaaSをタイムマシン的に展開するということも通用しなくなりつつある」

「むしろ世界は、日本が人口減少社会の中でどのようなイノベーションを生み出すのかに注目をしています。人口減少社会での生産性向上という日本固有のペインを解決するSaaSは、ある意味、世界最先端であり、グローバル展開も含めた大きなチャンスがあります」(岩澤氏)