「サステナブルな方法に変えたいという思いはあるものの、収量が減ってしまうことが課題となって、(化学肥料からの転換に)なかなか踏み切れないという農家の方々も多いんです」
TOWING代表取締役の西田宏平氏は農家の現状についてそのように話す。まさにこの課題の解決策として期待されているのが、同社が開発する高機能バイオ炭の宙炭だ。
宙炭はもみ殻や畜糞を始めとした未利用バイオマスを原料としたバイオ炭に、独自にスクリーニングした土壌微生物叢を添加し、地域で利用される有機肥料に微生物を培養したものだ。
軸となっているのが日本酒の発酵技法を応用した、「微生物を培養する技術」。硝化菌とアンモニア化成菌という2つの菌を活性化させることで、有機肥料の分解効率を高めるといった機能を実現できるが、その際の“微生物のデザイン”の難易度が高く、なかなか実現できなかった技術なのだという。
実はこのコア技術はもともと農研機構で生まれたもの。西田氏は名古屋大学在籍時に所属していた研究室でこの技術と出会い、現在TOWINGを通じて社会実装を進めているかたちだ。
宙炭のウリは「サステナブルでありながら、地域の農業をアップデートできること」(西田氏)。従来であれば5年ほどを要していた有機肥料に適した土づくりの期間を約1カ月に短縮できるほか、収量の向上も後押しする。あくまで試験導入段階での成果にはなるものの、実際に20〜70%程度の増収に繋がった事例も出てきた。
脱炭素の観点では炭素の固定や吸収効果が期待でき、10アール(1000平方メートル)あたり、CO2換算で1〜4トンほどの炭素固定量を見込めるという。
農家が宙炭を使う際には、堆肥や土壌改良材の代替品として用いることになるため「既存のフローをほとんど変えることなく導入できる」のもポイントだ。
またバイオ炭の原料として“地域の未利用バイオマス”を活用している点も、ユニークなところだろう。米農家におけるもみ殻や畜産農家における畜ふんなどは、堆肥として販売できなければ有償で処分する必要があった。それらの未利用バイオマスを価値ある資源に変えて販売することができれば、事業者にとってのメリットは大きい。
ビジネスモデルに関しては、一連の商流に沿って複数のキャッシュポイントを作っていく構想だ。
バイオマスの廃棄事業者や農家などと連携し、各地でプラントを開設して宙炭の製造を委託する。そこで作られた宙炭は農家に販売。有機転換に成功して脱炭素の効果が生まれれば、農家が“カーボンクレジット”として企業向けに販売できるようにサポートもする。